Anesthesia & Analgesia、2022年6月 • 第 134 巻 • 第 6 号、1192 ~ 1200ページからInternational Anesthesia Research Societyの許可を得て転載。専門職の肩書と専門用語は、APSFのポリシーに沿ったテキスト内で標準化および修正された。 |
このPro-Conの記事では、著者らは、内視鏡的逆行性胆管膵管造影Endoscopic Retrograde Cholangiopancreatography(ERCP)の麻酔に関して反論または支持するよう求められている。ERCPは、共通の気道を必要とするだけでなく、通常、特別な処置台で腹臥位(または半腹臥位)で実施されるという点で独特である。さらに、処置時間は、1時間未満から数時間まで幅がある。
定義された標準治療が存在しない場合、処置の仕方は医師の間で異なることがよくある。このばらつきの原因は多因子的である。患者の要因と合併症、医師のスキルと経験、手続き上の必要性、およびデータの欠如などが、考慮事項となる。したがって、胃腸内視鏡検査患者の主要な麻酔法が、監視下麻酔法 Monitored Anesthesia Care(MAC)を支持する患者と挿管下全身麻酔 General Endotracheal Anesthesia(GEA)を希望する患者との間ではっきりと分かれていることは驚くべきことではない。
この議論は、これらの麻酔法と処置に関連した重大な合併症と死亡率への認識が高まっているため、重要である。アメリカ麻酔学会American Society of Anesthesiologists(ASA)のクローズドクレームレポートは、手術室外麻酔 nonoperating room anesthesia(NORA)の有害事象は、手術室で発生する同様の事象よりも、死亡や永久的な脳損傷を含む重篤な合併症の発生率が高いことを示している。1 実際、内視鏡室は、NORAのすべての場所の中で有害事象の割合が最も高かった。
麻酔専門医は、今後、NORA、特に内視鏡室での麻酔の需要の増加に確実に直面するだろう。したがって、このPro-Conの議論は、表1に要約されているように、ERCPを行うときにMACかGEAかを決定するための考察を示す。最終的に、さらなる体系的な臨床研究とそれに関連する結果から恩恵を受けるのは患者である。
表 1:Pro-Con討論のまとめ
PRO:ERCPの麻酔はMACで行うのが最適である
Samantha Stamper, MD, and
Christopher A. Troianos, MD, FASE, FASA
ERCPは、診断および治療の両方に蛍光透視法と内視鏡検査を利用する。その使用で、肝臓、胆嚢、胆管、および膵臓の評価が容易になる。近年、高度な内視鏡治療技術と画像技術の出現により、ERCPは主に治療的介入に使用されるようになっている(例: 磁気共鳴による磁気共鳴画像胆管膵管造影、内視鏡超音波)。13 このような処置には、胆道括約筋切開術、胆石の摘出または断片化、胆管および膵管のステント留置、膵仮性嚢胞ドレナージが含まれる。12,13これらの処置の多くは、以前は治療のために開腹手術または腹腔鏡手術が必要であったが、ERCPは現在、実行可能で費用対効果が高く、推奨される代替手段である。
高度な内視鏡処置には、低侵襲で、痛みが少ない、筋弛緩がほとんど必要ないという利点がある。6 米国では年間500,000件以上のERCPが実施されており、その大部分は麻酔サービスを必要としている。14 ERCPは高齢の患者でより頻繁に実施される。その多くは併存疾患を有している。13 高度な内視鏡処置を受ける患者にとってMACとGEAのどちらが優れているかについて、前向き無作為化試験に基づいて実施された研究結果は現在ないが、「MACファースト」を優先する説得力のある臨床的根拠はある。麻酔計画は常にそれぞれの患者に合わせて調整されるが、経験豊富な内視鏡検査チームは、body mass index(BMI)が正常または正常に近い健康な患者にとって、MACアプローチが優れた方法でありうることを認識している。内視鏡医と麻酔専門医の間の明確なコミュニケーションは重要である。例えば、ERCPの特定の適応症(治療なのか診断なのか)と処置にかかる時間は、共有されたメンタルモデルを作成するために不可欠であり、最適な麻酔法を決定するのに役に立つであろう。例えば、処置計画が胆管ステントの単純な除去である場合、MACが最も適切である可能性がある。対照的に、壊死した壁を有する複雑な仮性膵嚢胞のドレナージには、ほぼ確実にGEAが必要であろう。したがって、処置の時間と侵襲性は麻酔法の選択に不可欠な情報であり、各麻酔法の長所と短所を考慮する必要がある(表2)。
表 2:各麻酔計画の長所と短所
特定の設備要因も同様に、最適な麻酔法の選択に関与する。これらの考慮事項には、主要な手術室への近さ、救急セットの準備、適切な麻酔後のケアユニット、および必要に応じて追加の支援を受けられるかが含まれる。その他の考慮事項には、物理的な麻酔作業スペースがあるかが含まれる。これは、特殊な機器(内視鏡用品、放射線画像機器、補助ディスプレイ/ビューイングタワーなど)のために制限されることがよくある。処置の前に施設と内視鏡チームの両方とのコミュニケーションは、合併症を軽減するために重要である。さらに、医師は、緊急の気道確保が必要な場合に備えて、明確なプランと経路が整っていることを常に確認しておかなければならない。上記の要因は、MACを優先する決定に関与する可能性がある。
複雑な内視鏡検査(特にERCP処置)は、通常、腹臥位または半腹臥位で行われる。これにより、気道へのアクセスが制限されたり、静脈還流や心血管の安定性に影響を与えたりする可能性がある。2 ただし、この体位は通常、挿管されていない(MACなどの)患者の肺の換気血流分布(V/Q match)を維持する。さらに、内視鏡自体がステントとして機能することにより、気道の虚脱を緩和しうる。15 腹臥位は呼吸機能に複数のプラスの効果をもたらし、特に機能的残気量(functional residual capacity: FRC)と動脈血中 PO2を増加させる。2
腹臥位でのMACに関する主な懸念は、気管内挿管を含む気道への緊急のアクセスが必要な可能性があるということである。挑戦的な戦略の1つは、十分に訓練された内視鏡医が胃カメラを使って気管内挿管を行うことである。これには、気管に挿入できる小型の内視鏡と、そのスキルを備えた内視鏡医が必要であり、麻酔専門医がいればより容易になる。「超細経」胃カメラは、気管支鏡と同様に機能し、スコープに成人の気管内チューブを通しておくことができ、外径5.4 mmである。16 ERCPを受けた3,400人を超える患者のレビュー(46%がGEA、54%がMAC)によると、MACからGEAへの移行率は2.3%と低かった。著者らは、胃内に食物が残っていたり、低酸素状態だったりしたために、16人の患者に胃カメラによる気管挿管を使用して成功したことを説明している。17 胃カメラのもう 1 つの利点は、誤嚥した物質を気管や気管支からすぐに吸引できるため、呼吸器合併症のリスクが減少することである。17 胃カメラによる挿管を受けたすべての患者で抜管が成功し、X線上誤嚥性肺炎を示した患者はいなかった。17
気道の危機を救うこの新しいアプローチは、腹臥位または半腹臥位でMACを行うか検討している医師の最も大きな懸念を取り除く。上記の研究の内視鏡医は、この技術を独学で身に付けており、胃カメラによる挿管に関する正式な訓練や認定プロセスが現在存在しないという事実が強調される。17 この技術は、麻酔専門医の監督下でのみ検討するか、麻酔専門医によって実行されるべきである。挿管に超細径胃カメラを使用する際の重要な注意点の1つは、内視鏡医が従来の側面観察ERCP用の胃カメラから気管内チューブを備えた超細径胃カメラに切り替える必要があることである。この交換は、抜管時に胃、食道、および下咽頭を吸引する利点があるが、挿管の遅延の可能性を最小限にするよう、迅速な方法で実行しなければならない。
表 3:MAC中の鎮静関連の有害事象の危険因子
ERCPをMACで行う前に、表3で強調されているように、鎮静関連の有害事象(sedation-related adverse events: SRAE)の危険因子を考慮する必要がある。誤嚥の可能性を高める条件は、SRAEの危険因子であると多くの人が考えている。多くの研究で、特にSRAEの危険因子が少ない患者において、MACがERCPの安全な選択肢であることが示されている。米国の複数の内視鏡検査センターで行われた10年にわたる大規模な集団ベースの研究では、MAC(n = 8395)と GEA(n = 10,715; オッズ比]、0.76~1.43)と有意差は認めなかった。2,3 とはいえ、これらの患者の大部分は比較的健康であり(ASA PS I および II)、著者は選択バイアスを調整しなかった。ASA PSIの患者と ASA PSIIの患者の間で有害事象に有意差はなく(OR = 0.84 [0.49~1.46])、ASA PSIIIとASA PSIIの患者も有意差はなかった(OR = 1.30 [1.00~1.69])。実際、このデータでは、ASA PSIVの患者のみが、MACによる有害事象のリスクが有意に高いことに注目している(OR = 3.19 [2.00~5.09])。2,3 別の前向き観察研究では、MACまたはGEAの決定は麻酔専門医に委ねられ、393人の患者がMAC、45人の患者がGEAで行った。4 MACからGEAへの移行率は3.7%だった。特に、GEAに移行した患者の25%がASA PSIVの患者だった。2,4 この研究の固有の選択バイアスを考えると、平均BMIがMAC群よりGEA群の方が高くASA PSIVの患者の割合が高かったことは驚くことではない。4,6 それにもかかわらず、MACとGEAの間の有害事象の発生率は統計的に差がなかったため、研究の著者は、麻酔専門家により処置前に評価された健康で肥満のない患者にとってMACは適していると結論付けた。2,4,6
ERCPのMAC中の臨床モニタリングは、患者の酸素化、換気、循環、および体温の継続的な評価を含み、基本的な麻酔モニタリングの基準に従う必要がある。18 これには、非観血的な血圧測定、パルスオキシメトリー、心電図、カプノグラフィーの測定が含まれる。MACで使用される多くの気道器具(鼻カニューレや単純なフェイスマスクなど)は、呼気終末CO2を監視し、低酸素症が起こる前に無呼吸を検出することができる。4,19 パルスオキシメトリが低下する前に無呼吸を検出するための追加のモニタリング方法が利用可能であり、これにはインピーダンス呼吸造影法や、手術室ではあまり一般的ではないが、音響呼吸数モニターが含まれる。
すべてのMACの麻酔は、適切な前酸素化から始まる。これは、より深刻な有害事象(不整脈、低血圧、心停止など)の明らかな前兆である低酸素血症を防ぐ上で重要である。20 理想的には、3分間の前酸素化または4回の肺活量呼吸により、換気が不充分で酸素飽和度が低下し始める前に、少なくとも4分間の「安全時間」を確保できる。21 FRCの減少により「安全時間」が短縮されるが、肥満患者における適切な前酸素化は最も重要である。肥満患者は、前酸素化を行っていても腹臥位でいる間にさらに悪化する可能性のある肺および全身の合併症を併発していることが多いことに留意しなければならない。鎮静剤投与前の適切な前酸素化は、プロポフォールの初期ボーラス投与で一過性無呼吸/低換気が発生した場合の安全域を増加させる。このような場合、前酸素化により、麻酔チームと内視鏡検査チームは、低酸素血症を起こす前に是正処置(例えば、下顎挙上や刺激のための内視鏡の挿入)に介入する時間を増やすことができる。
MACで ERCPを受けている患者に酸素を補給するには、低流量から高流量の鼻カニューレ、酸素マスク、特殊な内視鏡マスクなど、いくつかの方法がある。これらはすべて、供給できる吸入酸素の量が異なる。これらのデバイスの多くは、カプノグラフィーをモニターすることもできる。多くのセンターでは、鎮静を開始する前に、内視鏡を噛まないように患者にバイトブロックを噛ませる。多くのバイトブロックには、気道確保機能があるか、気道分泌物を除去する吸引ポートが備わっている。15 気道確保装置がアプローチしやすいことに加えて、患者が自己で体位を維持することは、GEAを受けている患者ではわからない可能性のある体の圧迫や神経損傷のリスクを減らすのに役立つ。自己での体位維持の追加の利点は、全身麻酔下にある場合に必要となるような、体位変換を補助するために必要なスタッフが少なくて済むことである。
高度な内視鏡処置のためにMAC中に考慮すべき追加の投与薬が多数ある。グリコピロレートの前投薬は、分泌物を減らし、局所麻酔薬の効果を改善する。22 回転率の高い内視鏡センターでは、手術前に効果を発現させるために前室で投与する必要がある。それに応じて、患者はそれぞれの薬の副作用について説明を受ける必要がある。鎮静を開始する前に、局所咽頭麻酔により、スコープ挿入による刺激が鈍化する。局所麻酔には有効成分としてベンゾカインまたはリドカインを含む局所麻酔スプレー、または患者が口の中ですすいで飲み込むことができる粘性リドカインが含まれる。ベンゾカイン含有溶液を使用する場合は、メトヘモグロビン血症のリスクがあるため注意が必要である。理想的な維持麻酔薬は、自発換気を維持しながら、調節が簡単であり、回復が迅速、副作用は最小限であることである。プロポフォールは、自発換気を維持すると同時に中程度から深い鎮静を提供するように簡単に調整される。23 鎮痛が必要な場合は、短時間作用型オピオイド、デクスメデトミジン、またはケタミンの静脈内投与を追加することを勧める。22 さらに、気道への緊急アクセスが必要な場合は、内視鏡を抜去するだけで、内視鏡処置をほぼ即座に中止できる。スコープの抜去は喉頭痙攣を引き起こす可能性があるため、気道を確保する準備をしながら、合併症を緊急に治療する準備ができている必要がある。ERCP中は胃カメラの挿入以外で、処置中の刺激の強度は外科手術とは対照的に比較的一定のままである。刺激が比較的少ないか、ないため、自発換気を維持するための麻酔薬の滴定は、通常は簡単である。20 プロポフォールを単独で使用すると、精神運動速度と反応時間の回復は遅れるが、中止後30~45分以内に認知機能はベースラインに戻る。24 MACにより、それぞれ副作用を持つ脱分極および非脱分極の両方の神経筋弛緩薬の使用が回避される。また、吸入麻酔薬やオピオイドを使用しない場合は、術後の吐き気や嘔吐が少なくなり、患者の満足度が向上する。
GEAがリスクなしであるということはない。挿管は、唇、舌、歯、および眼の損傷のリスクを伴い、まれではあるが、気管支破裂または気道を確保困難で、外科的介入が必要になる。サクシニルコリンは、その急速な発症と短い持続時間のために最も頻繁に使用され、内視鏡検査の場合、通常、筋弛緩は挿管以外の場合は必要ない。サクシニルコリンの副作用には、筋肉痛、ミオグロビン血症、ミオグロビン尿症、悪性高熱症などがある。20 非脱分極性筋弛緩薬の使用は、残存筋弛緩薬による術後肺合併症のリスク増加と関連している。24 スガマデクスがすぐに利用できる施設では、これはあまり問題にならないかもしれないが、筋弛緩薬拮抗薬に関連する抗コリン作用も考慮する必要がある。GEAに必要な麻酔の深さは、低血圧のリスクを高め、心筋損傷、腎機能低下、および場合によっては死亡のリスクを高める可能性がある。26 またERCPは腹臥位または半腹臥位で実施されるため、X線透視台で仰臥位から腹臥位に向きを変えながら患者を安全に固定するには、複数の人員が必要である。体位変換中に気管内チューブのずれや偶発的な抜管のリスクは常にある。最後に、NORAでは、緊急時や麻酔の交代時に同僚や他のチームメンバーからのサポートが少ないことが多く、その後施設の効率が低下する可能性がある。Perbtaniら5 は、大規模なインターベンショナル内視鏡センターにおけるさまざまな効率指標に対するGEAの影響を評価した。6か月間に 1,635回の侵襲的な内視鏡手術を受けた1,400人以上の患者が、麻酔準備時間、内視鏡医準備時間、手術時間、退室時間、部屋の入れ替わりにかかる時間、非手術時間経過、合計時間を分析した。内視鏡ユニットでの経過時間、および1日あたりの部屋あたりの症例数を分析した。2,5 インターベンショナル内視鏡検査室で、挿管された患者では、挿管されていない患者と比較して、部屋の入れ替わり時間の間隔を除いて、すべてのプロセス効率指標が有意に延長した。この研究では、ERCPを受けている患者が他の処置を受けている患者よりも頻繁に挿管されていることを示した(41.3% 対 12.4%)。2,5
結論として、適切に選択されたERCPを受けている患者において、MACはGEAよりも大きな利点を提供する。これらの利点には、より速い認知機能の回復、GEAを行うために使用される薬物による副作用の減少、気道損傷のリスクの減少、術後の肺合併症の減少が含まれる。より迅速な導入と退院までの時間の短縮により、病院で過ごす時間が短縮され、それによってユニット、プロバイダー、および患者の効率指標が向上する。適切なモニタリング、酸素投与、鎮静を慎重に調整して自発換気を維持することで、ERCP中のMACは安全であり、多くの場合GEAの優れた代替手段となる。
CON:GEAはMACに勝る大きな利点を提供する
Luke S. Janik、MD、
Jeffery S. Vender、MD、MCCM
ERCP は、膵胆道系疾患の診断と管理において頻用される。毎年、500,000 件を超えるERCPが米国で実施されており、最も一般的な適応症は胆管結石と胆管および膵管系の狭窄である。27 ERCP は、肝臓、胆道、および膵臓の疾患の管理において非常に重要なツールだが、一般的に、消化管で実施される最もリスクの高い処置と考えられており、合併症率は4%である。28合併症には、膵炎(2%~10%)、胆管炎/敗血症(0.5%~3%)、括約筋切開後の出血(0.3%~2%)、十二指腸穿孔(0.08%~0.6%)、 および死亡(0.06%)がある。28,29 しかし、麻酔専門家にとってより懸念されるのは、処置中のSRAEの発生率が高く、発生率が21%と報告されていることである。6,7 これにより、ERCP 中に誰が麻酔を行い、患者を監視するべきか、またどのような種類の麻酔を行うべきかという問題が生じる。この「Pro-Con」では、資格を持つ麻酔専門家が ERCP の麻酔を行う必要があり、GEA は MAC よりも大きな利点があることを主張する。
ERCP の麻酔の提供方法はさまざまである。最も一般的な麻酔法は、(1)内視鏡医主導の鎮静(EDS)、(2)MAC、および(3)GEAである。最初の方法であるEDSでは、静脈内鎮静は、内視鏡医の監督下で消化器チームのメンバー(通常は看護師)によって管理される。ベンゾジアゼピンと麻薬の滴定による従来の「コミュニケーションができる程度の鎮静」は、処置の失敗率が高く、患者の満足度が低く、内視鏡医の満足度が低いため、一般的に好まれなくなってきた。30 その結果、EDSでは非麻酔専門家によるプロポフォール鎮静を行うようになった。これは消化器病学コミュニティが安全で効果的であると宣伝している。31~33 他の2つの麻酔法では、患者は資格を持つ麻酔専門家の管理下にあり、プロポフォールベースの鎮静によるMACあるいはGEAのいずれかを受ける。麻酔法の選択は施設により、利用可能なリソースと人員、手続きの複雑さ、患者の特性と併存疾患、および個人の好みによる。
麻酔をどのように行うべきかを議論する前に、麻酔が行われる場所を認識する必要がある。手術室外の離れた場所での麻酔のリスクは広く認識されている。ASA Closed Claims データベースの分析では、麻酔専門家に対する手術室外での医療過誤の申し立てを検討し、手術室外での有害事象は、手術室よりも死亡や永久的な脳損傷を含む重度の合併症の発生率が高いことを示した。実際、手術室外の死亡率は手術室のほぼ2倍だった(54%対29%)。11 呼吸器系のイベントは、手術室よりも手術室外でより一般的であり(44% 対 20%)、不十分な酸素化/換気が原因となったのは手術室で3%、手術室外で 21% であった。11 GI 部門に固有の過誤には、さらに注意が必要である。他の手術室外の場所と比較して、GI 部門は、麻酔による過誤の割合が最も高く(32%)、過鎮静に関連する過誤の割合が最も高く(58%)、MAC の施行率が最も高かった(>80%)。11 これらのデータは、麻酔の専門家にとって驚くべきものではない。不慣れな場所、リソースの不足、使い勝手の悪さ、限られた支援、さまざまな医療安全の文化、および麻酔器やスタッフからの物理的な距離は、GI部門での日常的な障壁である。さらに、患者は多くの場合、高齢で病状が良くない。11 他にもERCP は、日常的に行われる腹臥位、気道へのアクセスの制限、気道閉塞や喉頭痙攣を起こす可能性のある内視鏡の使用など、特有の問題をもたらす。これらすべての課題を考慮すると、ERCP の麻酔にはかなりのリスクが伴い、慎重に検討する必要がある。
ERCPに対するMACの支持者は、主に消化器病学の多数のレトロスペクティブおよびプロスペクティブ研究から、この技術が安全で効果的であると結論付けている。4,6,8,33,34 MACとGEAを比較した前向き研究では、Berzinら6 はSRAE全体の割合は21%と報告している。MACコホートにおける有害事象は、低酸素血症(12.5%、酸素飽和度 <85% と定義)、予定外のマスク換気(0.6%)、予定外の挿管(3%)、処置の中断(5%)であった。6 これらのデータから、著者らは「鎮静に関連する軽微な事象は一般的(21%)であったが、処置の一時的な中断に至ったケースはわずか 5% である」と結論付けた。彼らは、「予定外の挿管が必要と考えられるまれなケースでは、気道確保は簡単であった」と述べて、予定外の挿管が3%発生することをあっさり否定した。MAC下でのERCPに関する同様の前向き研究で、Zhangら7 は、鎮静関連の合併症が患者の18%で発生し、低酸素血症(少なくとも2分間の酸素飽和度 <90% と定義)が9%の患者で発生し、33%を超える患者に複数回の低酸素症が発生していたと報告した。著者らは、彼らの研究における低酸素血症の発生率は、他の同様の研究における発生率と同等であり、したがって「ERCPのための麻酔担当者による鎮静は安全である」と結論付けた。ERCPに対するMACのレトロスペクティブ レビューで、Yangら9 は、気道操作を必要とする低酸素血症(酸素飽和度<90%と定義)の発生率を28%と報告し、そのうち1.6%の患者で胃内残渣のためにGEAへの切り替えを必要としたとしている。彼らの調査結果にもかかわらず、著者は「プロポフォールはERCPを受ける患者の鎮静薬として安全かつ効果的に使用できる」と結論付けた。
SRAE、低酸素症、気道操作の発生率が高いと報告した研究で、鎮静が「安全」「実行可能」「適切」であると結論付けることができるのか?4,6~9 それらのイベントが重大な結果につながらないからといって、そのイベントが重要でないとは言えない! データの解釈は、結局のところデータを見るレンズに依存する。消化器内科医は、患者が長期的な後遺症を負わない限り、予定外の挿管率が3%であっても6、または低酸素血症の発生率が33%であっても7、心配しないだろう。しかし、緊急の気道管理と心肺蘇生を担当する麻酔専門家は、これらの低酸素症のエピソードのひとつひとつを「ニアミス」イベントととらえるかもしれない。パルスオキシメトリーは換気ではなく酸素化の測定であり、低換気や進行性の高炭酸ガス血症を確実に検出するために使用することはできないことに注意すべきである。35,36 ERCPに対するMAC中に標準的に行われる酸素投与下における低酸素血症は、低換気の後期マーカーであり、差し迫った呼吸停止の前兆である。
議論のために、別のシナリオを考えてみよう。シートベルトを着用せずに 1 年間運転し、発生した事故でけがをしたことがない場合、シートベルトを着用せずに運転することは安全で、実行可能で、適切であると結論付けるのは正しいだろうか?手術室外で、腹臥位で、気道へのアクセスが制限された状態で行われるERCPに対するMAC中の高率な低酸素血症を正常化して受け入れることは、危険な前例となる。鎮静中の SRAE および低酸素症の「許容可能な」割合を定義することは難しいことは認める。しかし、私たちの意見では、前述の研究で報告されたSRAEと低酸素症の発生率は憂慮すべきものであり、取るに足らない出来事として片付けられるものではなく、患者の安全上の懸念として提示されるべきである。
では、ERCP に対するGEAを支持する証拠に注目しよう。ERCPに対するMACの安全性をGEAと比較したランダム化比較試験では、結果は明らかにGEAを支持している。10 この研究には、STOP-BANGスコア 3 以上、腹水、BMI 35以上、慢性肺疾患、ASA-PSスコア4以上、マランパティクラス 4、中度から重度の飲酒があるSRAEのハイリスク患者が含まれていた。STOP-BANGは以下を含むスコアリングシステムである。いびき、疲労感、観察された無呼吸、血圧、BMI、年齢、頚部周囲長、性別)。SRAEの発生率は、GEAグループと比較してMACグループで著しく高かった(51.5% 対 9.9%)。10 MAC グループでは、低酸素血症(酸素飽和度 <90%と定義)が19%の患者で発生し、そのうち45%で 1 回以上の気道操作が必要になり、8% でバッグマスク換気が必要となった。10 逆に、GEAグループでは低酸素血症または気道操作の発生はなかった。MACグループの10.1%でERCP手順を中断する必要があり、呼吸不安定(8%)および胃内容物の存在(2%)のためにGEAへの移行が必要だった。10 注目すべきは、昇圧薬を必要とする低血圧は両群で同様の割合で発生し、処置時間、技術的成功、および患者の回復時間に差がなかったということである。10
データは少し脇に置いて、一歩下がって、麻酔専門家の視点から危機管理の実態について議論してみる。手術室外で孤立した状態で、助けや医療資源が限られている状況で、腹臥位で気道確保ができなくなることは、麻酔専門家にとって悪夢であり、そうあるべきだ。内視鏡の抜去、X線透視装置の移動、ストレッチャーの搬入、仰臥位への変換は、一刻を争う場面では永遠のように感じるかもしれない。患者が気道を管理するために適切な体位になるまで、患者は呼吸停止の危機に瀕している可能性がある。そう、これはERCPの鎮静中の比較的まれなイベントだが、予防可能である。最初から気管挿管で気道確保できるのに、なぜこのようなリスクを冒す必要があるのだろうか?ERCP中の鎮静に関連する低酸素血症の発生率が高く、制限のある環境での予定外挿管に関連する多くの課題があるのだから、GEAは論理的な選択である。
消化器内科医の間では、MACはGEAよりも早くで、ターンオーバー時間が短く、患者の処理能力が高いという認識がある。この認識を裏付けるデータもあるが、5 他のデータによると、鎮静中に節約できた時間は、気道のトラブルへの頻繁な処置による中断で相殺される可能性が高い。10 実際には、GI部門の効率は、多くの異なる変数(内視鏡医による処置の効率を含む)の複雑な積であり、効率が気管チューブの有無のみに関連していると考えるのは近視眼的である。また、MACは本質的にGEAよりも優しく、安全で、侵襲性が低いという認識もある。そう、GEAには、歯牙損傷、神経筋遮断薬の残存、血行動態の不安定性、薬物の副作用などのリスクが伴う。しかし、これらのリスクは、腹臥位でのERCPに対するMAC中の気道確保のリスクと、率直に言って比較することはできない。麻酔の専門家としての私たちの仕事は、リスクを軽減することであり、ERCPに対する MAC 中の気道確保の脆弱性は、取るに足らないリスクである。
さらに大規模な多施設ランダム化比較試験が実施されるまでは、ERCPに対するMACと GEA に関する論争は続き、標準的な麻酔法は未確定のままであろう。しかし、すべての麻酔専門家が同意できることは、麻酔技術にかかわらず、麻酔は資格のある麻酔専門家が行うべきであるということである。米国では、ERCPに対するEDSは2005年の50%を超える症例に行われていたものが、2014年には5%に減少したが、ヨーロッパやその他の国では依然として蔓延している。3 10年間にわたって実施された約27,000件のERCPのレトロスペクティブレビューでは、EDSでは有害事象の発生率が高くなることが示された(OR = 1.86)。また、麻酔薬による鎮静よりも計画外の介入が必要になる可能性がほぼ 2 倍だった。3 EDSは、麻酔薬によるMACあるいはGEAよりも鎮静の失敗率が高く、その結果としてERCPの失敗率が高いことも実証されている。30,34 さらに悪いことに、EDSは患者の満足度と内視鏡医の満足度の両方を低下させた。33 私たちの意見では、ERCPに対するEDSは、患者の安全に対する脅威であり、放棄されるべきである。プロポフォールによる鎮静は、気道トラブルを迅速に認識する能力と、緊急時の気道管理スキルを備えた資格のある麻酔専門家によってのみ実施されるべきであると強く信じている。これらのスキルは、消化器内科の医師、看護師、技術者の業務範囲外である。
ERCPに対するMACは、高率の低酸素血症、気道介入、およびSRAEと関連している。これらのリスクと手術室外での麻酔に固有の危険性から、腹臥位でのERCPに対するMACの安全性には重大な懸念がある。賢明な麻酔科医であるCarl Hug Jr博士の言葉を引用すると、MACは「Monitored Anesthesia Care」ではなく「Maximal Anesthesia Caution」の略であるべきかもしれない。37 私たちは、ERCPを受けるすべての患者は資格のある麻酔専門家のケアを受けるべきであり、GEA はMACよりも大きな利点を提供すると考えている。
まとめ
このPro-Con論文は、近年の複雑な内視鏡処置の増加と、ERCPを受ける患者に対する決定的な麻酔法を支持するための大規模な無作為化比較研究がないことに端を発している。この議論は、合併症の発生率や気道の共有が必要であることから、特に重要である。MAC の利点は、血行動態の乱れが少ない、吸入麻酔薬の副作用が少ない、認知機能の回復が早い、処置全体にかかる時間が短いなどがあるが、MAC 中に発生することが知られている酸素化障害や換気障害による重大なイベントの発生率と比較検討する必要がある。この議論で取り上げた2つのアプローチは、特定の患者と臨床状況に最適な麻酔薬を、資格のある麻酔専門家に判断してもらうことの重要性を強調するものである。
Luke S. Janik, MDは、シカゴ大学の臨床助教であり、イリノイ州エバンストンにある ノースショア大学 HealthSystemの麻酔科学、クリティカル ケアおよび疼痛科学の教員である。
Jeffery S. Vender、MD、MCCM は、イリノイ州シカゴのシカゴ大学麻酔科の臨床名誉教授である。
Samantha Stamper、MDは、ケース ウェスタン リザーブ大学のクリーブランドクリニック ラーナー医科大学の助教であり、オハイオ州クリーブランドのクリーブランドクリニックにある麻酔学研究所の教員でもある。
Christopher A. Troianos、MD、FASE、FASAは、オハイオ州クリーブランドのケース ウェスタンリザーブ大学ラーナー医科大学クリーブランドクリニックの麻酔科学部門の臨床教授。
情報開示:Luke S. Janik, MD、Samantha Stamper, MD、および Christopher A. Troianos, MD, FASE, FASA には利益相反はない。Jeffery S. Vender、MD、MCCM は、Fresenius Kabi、Medline Industries、および Medtronic のコンサルタント。
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