高度な消化管内視鏡処置において進化する麻酔の標準

Richard C. Prielipp、MD、MBA、FCCM; Stuart K. Amateau、MD、PhD、FASGE、FACG、AGAF
Anesthesia & Analgesia、 2022 年 6 月 • 第 134 巻 • 第 6 号、1192 ~ 1200ページからInternational Anesthesia Research Societyの許可を得て転載。専門職の肩書と専門用語は、APSFのポリシーに沿ったテキスト内で標準化および修正。

内視鏡検査米国では毎年、患者は1,100万回以上の大腸内視鏡検査、600万回を超える上部消化管(GI)内視鏡検査、18万回の上部超音波内視鏡検査、および50万回近くの内視鏡的逆行性胆管膵管造影(ERCP)を受けている。1 胃腸疾患の総支出は年間1,360億ドルを超え、毎年増加し続けている。1 患者は多くの重大な併存疾患、高度な虚弱、生理的予備力の低下を示すため、これらの処置中に麻酔管理はますます必要になる。さらに現在、患者はより進行した疾患を同時に呈しているため、ますます複雑で広範なインターベンション処置を受けることが多くなっている。したがって、Anesthesia & Analgesiaの今号の現在のPro-Con討論記事の著者が、消化管内視鏡処置に対する現在の麻酔の推奨事項に関して2つの相反する見解を示していることは驚くべきことではない。2 これらの著者は、同様に印象的で高次ハイボリュームセンターで診療を行っているが、消化管内視鏡検査を受ける選択された患者に対して異なる麻酔ケアの推奨事項を提示している。臨床医は、このような状況でこれらの困難な患者のために、「最良の麻酔薬」を自分で選択することを確実に熟考するだろう。

なぜあいまいなのか?医療科学は検証済みの結果データを欠いており、医療の実践はしばしば変化し標準治療が定義されていない。この変動性は、通常、患者の併存疾患、開業医のスキルや経験が一定でない事、手続きの必要性が進化していること、一貫性のないリソース、さらには物理的な施設のばらつき(手術室、施術エリア、GIスイート、入院患者と外来患者の設定など)の結果である。さらに、最適で安全かつ効率的な麻酔を実施するために、麻酔専門家は、GI施行者の固有の問題や要求も理解する必要がある。確かに、歴史的に、内視鏡医はしばしば中等度の鎮静(いわゆる内視鏡医主導の鎮静[EDS]モデル)を実質的にすべてのケースに利用しており、なかには重大な併存疾患のある患者や、ERCPなどの複雑なインターベンションを受けている患者も含まれたた。このEDSモデルが選択された理由の 1 つは、高度な麻酔サービスおよびプロバイダーへのアクセスが限られていたことと、症例の合間の迅速な入れ替えが重要な要件であったことである。このように、このベッドサイドでの「意識下鎮静」アプローチは、1990年代の全般を通じて標準のままだった。しかし、過去20年間で状況は大きく変化し、プロポフォールの静脈内投与の使用が広がり、麻酔科専門医師が関われる機会が増加し、効率的、安全、深い鎮静、または必要に応じて全身麻酔が日常的に行われるようになった。内視鏡医は、麻酔科専門医師が提供する深い鎮静の有用性と利点を認識している。このアプローチは、患者の安全を確保しながらインターベンション手技の失敗を減らし、患者の経験と満足度を改善し、鎮静からの処置後の回復を最適化するからである。3 このように、EDSモデルは著しく減少しており、近ごろでは消化器内科コミュニティ内でこのアプローチを支持する人は少なくなっている。さらに、高度なERCPやサードスペース内視鏡検査など、さらに複雑で時間のかかる処置が行われるようになり、安全な気道確保と、遠位カニューレの挿入を容易にするための安定した不動の手術野確保をするために、全身麻酔がしばしば必要とされる。4

特定の内視鏡介入に適した鎮静レベルを決定するには、利用可能なリソースと運用上の要件を背景に、患者と処置の特性を綿密に評価する必要がある。一方で、健康で意欲的な患者の基本的な大腸内視鏡検査に対して、胃腸内視鏡検査医は最小限の鎮静オプションを提供するか鎮静オプションをまったく提供しなくなった。水交換などの専門的な技術は不快感を最小限に抑え、このアプローチは典型的な鎮静後の制限を回避することさえできる。5 現在の内視鏡検査センターの特徴として、予定された処置のほんの数十分前に患者と医師が初めて会うため、適切な鎮静目標の選択をさらに強化している。通常、高度なスケジューリング チームには、これらの最初のトリアージの決定を支援できる知識のある医療提供者が含まれる。ただし、他のユニットではすべての患者に、一つの標準アプローチとしての深い鎮静に移行している。全身麻酔は、多忙な外来診療センターに最適と見なされる基準から外れる一握りの患者のために予約される。

監視下の麻酔管理ケア(MAC)または全身麻酔を介して深い鎮静を受ける患者において、患者の体位や選択した麻酔薬の適切性に関して、内視鏡医と麻酔専門家の間で処置前の早期に連絡を取ることが適切な診療となる。患者体位は重要な1 つのカギとなる。患者がERCPのような腹臥位またはほとんどの上部および下部内視鏡処置のような側臥位のいずれかに配置されると、気道の解剖学的構造と重力のおかげで安全性が高まり、逆流した内容物が気管への流入ではなく口からの流出になりやすい。したがって、仰臥位を必要とする患者は、胃食道内容物の受動的誤嚥を避けるために、全身麻酔と気管内挿管への変換が必要になる場合がある。また処置中の誤嚥のリスクが高いか、気道確保が難しいと見なされるような患者は、全身麻酔へのステップアップ、または鎮静レベルの低下へのステップダウンの検討を促す必要がある。さらに、以前に食道手術(例、Ivor-Lewis 食道切除術)を受けた患者は、事実上すべての消化管内視鏡インターベンションに対して、特別な予防措置、安全な気道確保、および全身麻酔が必要になる。全身麻酔は最も幅広いインターベンションのオプションを可能にするが、深鎮静と比較して、より多くの費用、時間、リソース、およびより大きな血行動態の不安定性と潜在的な口腔外傷の可能性が発生するため、デフォルトであってはならない。

今日、少なくとも西半球では、高機能内視鏡検査ユニットでは大多数の患者に深鎮静(MAC)を使用し、全身麻酔は病院内でスケジュールが必要な一部の患者に予約されている。全身麻酔に必要な追加費用とリソースの使用は、安全性、経験、効率、および成果の向上によって正当化される。したがって、深鎮静(MAC)または全身麻酔は、手技的介入を伴う複雑な上部内視鏡検査を受ける患者にとって、実質的には標準治療になると考えている。2 上部消化管内視鏡検査とERCP処置に最適な麻酔薬について、非常に異なる視点をさらに探求するこの討論記事を、読者がジャーナル内で楽しんでいただけることを願っている。上記のすべての要因に加えて、医療法的責任の可能性を伴う患者の有害事象の可能性が、間違いなくこの意思決定プロセスに寄与している。6 実際、訴訟は、消化管インターベンションの強度の増加と、高齢で虚弱な患者集団の効率的な処理能力の要求に比例して増加している。傷害の範囲は、軽微な歯の損傷や誤嚥性肺炎から、心不整脈や有害な呼吸イベントに至るまで、脳の損傷や死に至ることさえある。6,7 通常、不法行為に関する申し立てには、不適切な患者の選択、不十分な患者の評価または準備、気道が確保されていない患者への過度の鎮静が含まれる。6,7 実際、ほとんどの経験豊富な臨床医は、中程度/深鎮静下または全身麻酔下で行われた内視鏡検査が「うまくいかず」、重大な患者の傷害または死亡につながったケースを少なくとも 1 件知っている。私たちの専門家の著者による博識的な議論は、臨床医が内視鏡処置中に将来の麻酔薬の選択を最適化するのに役立つと思われる。(内視鏡処置中の麻酔については、)他の非常に多くの臨床状況と同様に、あらゆる状況でのすべての患者に推奨、義務付け、または適用できるような絶対的なアプローチは、めったにない。

 

Richard C. Prielipp、MD、MBA、FCCM は、ミネソタ州ミネアポリスのミネソタ大学医療センター麻酔科の名誉教授。

Stuart K. Amateau、MD、PhD、FASGE、FACG、AGAFは、ミネソタ州ミネソタ州ミネアポリスにあるミネソタ大学医療センターの消化器病学および肝臓学部門の医学部の准教授。


情報開示:Richard C. Prielipp MD、MBA、FCCMのは、Merck & Co, Inc.と3M Healthcare、Medical Solutions Division のコンサルタント。Stuart K. Amateau、MD、PhD、FASGE、FACG、AGAFは、Cook Medical、Boston Scientific、Merit Medical、Steris Medical、および Olympus のコンサルタント。


参考文献

  1. Peery AF, Crockett SD, Murphy CC, et al. Burden and cost of gastrointestinal, liver, and pancreatic diseases in the United States: update 2018. Gastroenterology. 2019;156:254–272.e11. PMID: 30315778.
  2. Janik L, Stamper S, Vender J, Troianos C. Pro-con debate: monitored anesthesia care versus general endotracheal anesthesia for endoscopic retrograde cholangiopancreatography. Anesth Analg. 2022;134:1192–1200. PMID: 35595693.
  3. Zhang W, Zhu Z, Zheng Y. Effect and safety of propofol for sedation during colonoscopy: a meta-analysis. J Clin Anesth. 2018;51:10–18. PMID: 30059837.
  4. Smith ZL, Mullady DK, Lang GD, et al. A randomized controlled trial evaluating general endotracheal anesthesia versus monitored anesthesia care and the incidence of sedation-related adverse events during ERCP in high-risk patients. Gastrointest Endosc. 2019;89:855–862. PMID: 30217726.
  5. Fischer LS, Lumsden A, Leung FW. Water exchange method for colonoscopy: learning curve of an experienced colonoscopist in a U.S. community practice setting. J Interv Gastroenterol. 2012;2:128–132. PMID: 23805393.
  6. Feld AD. Endoscopic sedation: medicolegal considerations. Gastrointest Endosc Clin N Am. 2008;18:783–788. PMID: 18922415.
  7. Yeh T, Beutler SS, Urman RD. What we can learn from nonoperating room anesthesia registries: analysis of clinical outcomes and closed claims data. Curr Opin Anaesthesiol. 2020;33:527–532. PMID: 32324655.