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帝王切開(Cesarean Delivery, CD)中の痛みは患者にとって苦痛であり、産科麻酔に対する訴訟の主な原因である。1 CD に対して麻酔を提供する場合、 分娩は患者にとって可能な限り快適であることが重要である。2,3 CD が必要となった患者で無痛分娩用硬膜外カテーテルが留置されていた場合、多くの場合手術の麻酔は 硬膜外カテーテルを介して局所麻酔薬(LA)をボーラス投与することにより開始される。無痛分娩用硬膜外が CD の手術麻酔に転用できることは、硬膜外無痛分娩の利点として挙げられることが多い。ただし、無痛分娩用硬膜外を手術のために転用することが常に成功するとは限らず、患者にとって分娩時の痛みや不安につながる可能性がある。
報告されている硬膜外麻酔の転用に関する失敗率は 0% から 21% の範囲である。4-8 この発生率の幅は、一貫性のない定義を反映しているかもしれない。例えば、硬膜外麻酔の転用失敗の率が低い報告では、自発呼吸を維持しつつ重要な補助静脈内投与薬(オピオイド、プロポフォール、ケタミンなど)を投与されている患者が除外されているかもしれない。これらの薬剤は、硬膜外麻酔が不充分な場合に気管挿管を伴う全身麻酔を避けるため、一般的に CD 中に投与される。現実的には、そのような実践は無痛分娩用硬膜外の転用の失敗とみなされるべきである。静脈内鎮静薬の使用は、誤嚥のリスク、不充分な疼痛管理、および母体の満足度の低下という不利益をもたらすことに留意されたい。
複数の要因が無痛分娩用硬膜外の転用失敗に関連している(表1)。9 しかしながら、CD を必要とする妊婦において、無痛分娩用硬膜外鎮痛からの手術用硬膜外麻酔への転換を試みることが継続して好まれている状況には困惑させられる。10無痛分娩用硬膜外麻酔の転用に失敗する可能性が高く代替として脊髄くも膜下麻酔を考慮すべき患者の層別化が必要である。
表1:無痛分娩用硬膜外麻酔の転用の失敗に関連する要因
突発痛/ボーラス投与の回数 |
硬膜外鎮痛の開始から 12 時間の超過 |
脊髄くも膜下硬膜外併用麻酔と比較して硬膜外麻酔単独 |
母体の身長> 167 cm |
帝王切開の緊急性 |
最近の無作為治験では、CD を行う上で、硬膜外麻酔で行った患者と硬膜外カテーテルを抜いて脊髄くも膜下麻酔を施行した患者を比較している。硬膜外麻酔グループと比較して、脊髄くも膜下麻酔グループの方が CD 中の母体の快適度は高かった。11 この研究の主な制限には、カテゴリー 3 の CD 緊急度分類(早期分娩が必要だが、母体、胎児は危機的状況ではない)の患者のみを採用し、脊髄くも膜下麻酔の導入にかかった時間が報告されていないことが挙げられる。2件の観察研究で、無痛分娩用硬膜外麻酔からの転用を受けた患者と比較し、転用を受けず脊髄くも膜下麻酔を受けた患者において、麻酔の質が向上し、さらに副作用プロファイルに関して硬膜外カテーテルを当初から使用していない脊髄くも膜下麻酔下の患者と同様であった。12,13
脊髄くも膜下麻酔は硬膜外麻酔と比較して優れた質の麻酔を提供するが、14 既に分娩時に硬膜外持続注入がなされている状況では全脊髄くも膜下麻酔または高位脊髄くも膜下麻酔のリスクの増加が報告されていることは、分娩時の CD における潜在的な欠点である。9 しかし、高位脊髄くも膜下麻酔または全脊髄くも膜下麻酔のほとんどの報告は、無痛分娩用硬膜外からの転用が失敗し、患者が硬膜外 LA のボーラス投与を受けた後、脊髄くも膜下麻酔を行った際に発生している。9 緊急または切迫した 状況でのCDでは、留置された硬膜外カテーテルから迅速に投与することで、新しく脊髄くも膜下麻酔を行うよりも早く麻酔を導入することができる。緊急 CD をシミュレートした研究では、産科麻酔専門家による脊髄くも膜下麻酔までの平均時間は、全身麻酔の 1 分 58 秒と比較して 2 分強であった。14 Kinsella らは、「ラピッドシークエンス脊髄くも膜下麻酔」の概念を提案し、カテゴリー 1 (緊急)CD のケースシリーズにおいて、脊髄くも膜下麻酔を準備、実行するのにかかった時間の中央値は 2(四分位範囲2–3 範囲[1–7])分であり、手術を施行するのに充分な麻酔を得るのにかかった時間は 中央値4(四分位範囲3–5 範囲[2–7])分であった。15
結論として、無痛分娩用硬膜外麻酔からの帝王切開手術用硬膜外麻酔への転用は、様々な失敗率と関連しており、その失敗率が高い可能性もある。無痛分娩用硬膜外の転用成功は、常に予測された通りになるとは限らない複数の要因の影響を受ける。したがって、脊髄くも膜下麻酔は、無痛分娩用硬膜外カテーテルが留置された患者であっても、分娩中の CD の合理的な代替の麻酔法として考慮されるべきである。
Dr. Ituk は アイオワ州アイオワシティの Carver College of Medicine の麻酔科学産科麻酔部門長である。
著者は、この記事に関する利益相反はない。
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