はじめに
気管切開は、長期間の人工呼吸器を必要とする患者、気道防護ができない患者、または上気道閉塞につながる咽頭病変を有する患者に対して行われる一般的な処置である。気管切開は比較的安全な処置であるが、合併症が少なくなく、気管切開が適切に機能するためには、管理手順を理解することが不可欠である。1
気管切開を受けた患者100人を対象とした単一施設の研究では、初回入院時の合併症率は47%であった。最も一般的な合併症は、気管切開部の閉塞(19%)、出血(16%)、感染(14%)および偶発的な抜管(13%)であった。2 これらの合併症は一般的だが、適切に管理されれば、気管切開に直接関連する死亡率は非常に低いことが示されている。3,4
不具合が疑われる気管切開に対する管理手順
気管切開チューブが閉塞または偶発的に抜管された場合、人工呼吸管理下の患者では気道内圧の上昇や一回換気量の減少、さらには呼気終末二酸化炭素の消失が予想される。これらの合併症が懸念される場合は、以下の対応を行い、気管切開チューブの機能不全の原因を特定すべきである。
まず、麻酔専門職は気管切開チューブのカフを脱気し、自発呼吸を可能にさせる。同時に、その気管切開について、いつ施行されたか、気管切開をした理由、気管切開の方法(外科的か経皮的か)など、より詳細な情報を得ることが重要である。また、上気道開存があるかどうか、すなわちマスク換気と挿管が可能かどうか、また経口挿管が困難である可能性についても判断する必要がある。患者がカフを脱気した状態で自発呼吸している場合、麻酔専門職は患者の口と気管切開孔の両方に酸素マスクを当てる必要がある。患者はどちらの部位からも呼吸している可能性があるためである。可能であれば、カプノグラフィーの波形を用いて、患者がどの経路で呼吸できるかを判断すべきである。5
気管切開チューブの閉塞の可能性を除外するために、麻酔専門職はインナーカニューレ(ある場合は)を抜去する必要がある(図1)。インナーカニューレは、気管切開チューブを閉塞しうる粘液やその他の物質を洗浄しやすいように取り外し可能になっている。それでも換気が不十分な場合は、麻酔専門職は吸引カテーテルを気管切開チューブから気管遠位部まで進めてみるべきである。吸引カテーテルが気管切開チューブの先端を超えて進まない場合は、気管切開チューブの先端が気管壁に押し付けられているか、カフが過度に膨張して閉塞している可能性がある。
また吸引カテーテルが気管切開チューブの先端まで進まない場合、気管切開チューブが、首の皮下組織に迷入している可能性がある。6 換気不良の原因を特定するため、麻酔専門職はバッグバルブマスクなどを用いて、ゆっくりと陽圧換気を試みるとよい。呼気終末二酸化炭素が検出されず、かつ気道内圧が高い場合は、陽圧換気を直ちに中止し、気管切開チューブが気管内に存在しないものと判断する必要がある。可能であれば、気管支鏡を気管切開チューブ内に進めて、チューブが気管内にないことを確認する。7 皮下組織にある気管切開チューブから陽圧換気を行うと、皮下気腫、気胸、縦隔気腫などの合併症を引き起こす可能性がある。さらに、加圧された空気が上気道の皮下組織に入り込み、挿管が困難になることもある。(図2)。
気管切開チューブが皮下組織にある可能性があり、かつ患者の換気が不十分である場合は、気管切開チューブを抜去する必要がある。気管切開チューブを抜管した後は、経口および気管切開孔からの換気の両方を評価する。換気が十分であれば、応援が到着するまで待機する。換気が不十分なままで患者の酸素飽和度が低下してきた場合、麻酔専門職は気管切開孔を閉塞して経口的にマスク換気を行うか、気管切開孔を介して換気を試みるべきである。8 小児用マスクは気管切開孔を介した換気に有用な可能性がある。
マスク換気が不十分な場合、緊急に経口挿管または気管切開孔を介して挿管する必要がある。経口挿管と気管切開孔挿管のどちらを選択するかは、上気道開存性、経口挿管の難易度、対応する医療従事者の経験、気管切開の時期によって左右される。経口挿管を試みることを支持する要因としては、気管切開チューブの交換に不慣れな医療従事者、経口挿管が容易であったという既往、口腔咽頭病変がないこと、または「新しい」気管切開(外科的気管切開は4日未満、経皮的気管切開は7~10日未満)であることなどがあげられる。9「新しい」気管切開孔では、チューブを誤って皮下組織に進めてしまうリスクがある。外科的気管切開は、気管の一部を皮膚に縫合するため、経皮的手術より早期に「成熟」とみなされ、チューブが皮下に迷入するリスクが少ない。経口挿管ではなく気管切開孔への挿管を支持する要因としては、気管切開チューブの交換に熟練した医療従事者、挿管困難の既往、経口挿管を困難にする腔咽頭病変、または良好に治癒した「成熟」気管切開孔がある場合などがあげられる。6
気管切開孔が「成熟」しており、適度な開口部の大きさがあり気管への経路が確保されている場合は、気管切開チューブを気管内に戻すだけで済む。気管切開孔が小さいか困難が予想される場合は、チューブが迷入する可能性が低いため、気管挿管チューブを使用することが推奨される。5 最初に挿管ブジーを気管切開孔に挿入し、経口挿管と同様の方法で気管輪を触知することができる。あるいは、まず気管支鏡を気管切開孔から挿入し、気管を確認することも可能である。その後、ブジーまたは気管支鏡を用いて気管内チューブを気管内に進めることができる。10
気管切開患者の安全性を高めるためには、ベッドサイドに掲示できるサインやアルゴリズムシートを常備し、管理を容易にすることが推奨される(図3および4)。11
気管切開を受けた状態で手術室に来た患者について
気管切開を施された状態で手術室に搬送された患者の場合、管理には複数の考慮事項がある。12 最優先事項は「気管切開歴」(上気道が開通しているかどうか、気管切開孔の成熟度などを含む)を把握することである。次に、手術中の換気ニーズを評価する必要がある。最もシンプルな状況は、カフ付き気管切開チューブが挿入されており、かつ術野とは離れている場合で、変更を加えることなくそのまま使用できる。カフなしの気管切開チューブの場合、患者が自発呼吸で管理され、陽圧換気が必要でない場合は、使用できる可能性がある。つまり、手術中の陽圧換気の必要性によって決定される。気管切開チューブが術野にある場合、経口または気管切開孔から気管内チューブを挿入し直す必要がある場合がある。
気管切開チューブを交換する必要がある場合は、前述した要因を参考にして、経口挿管するか、気管切開孔を使用するか判断することができる。経口挿管の場合、挿管チューブのカフを気管切開孔の直下にして、気管との密閉ができるようにする必要がある。気管切開孔を使用する場合、屈曲のリスクを最小限に抑えるために、ワイヤー補強された気管内チューブを選択することがある。気管切開孔は通常、第2気管輪と第4気管輪の間に作成される。気管切開孔から気管分岐部までの距離は約6.5cmなので、気管内チューブが主気管支に入らないように注意する必要がある。13 気管内チューブ挿入後は両側の呼吸音を聴診し、適切な位置を確認し、必要に応じて調整をする。
新しい気管切開孔など、気管内チューブを気管孔から挿入することが困難であることが懸念される場合、交換用カテーテルを使用すると気管切開チューブの交換を補助しうる。14 交換用カテーテルを使用することで、気管内チューブが皮下組織に迷入するリスクを最小限に抑えることができる。一部のチューブ交換器には、交換中に酸素を吹き込むことで酸素飽和度の低下を最小限に抑えることができるオープンチャネルが付属している。
特別な考慮事項:喉頭摘出患者
喉頭全摘出術を受けた患者、または「首呼吸」の患者には特別な配慮が必要である。これらの患者では、喉頭は摘出され、気管は前頸部の皮膚に縫合されている。その結果、気管は咽頭と交通しなくなり、口からの挿管やマスク換気ができなくなる。これは、呼吸困難が発生した場合、重大な安全リスクとなる。耳鼻咽喉科医を対象とした調査では、半数以上の臨床医が、喉頭全摘出術を受けた患者に対して、医療従事者が経口挿管またはマスク換気を試みた状況を経験したと回答した。その際の報告された死亡率は26%であった。15
喉頭全摘出患者の安全を守るには、上気道が開存している患者と区別する必要がある。その1つの方法は、喉頭摘出患者専用のベッドサイドサイン(図5)を設置し、患者のカルテに警告を記載することだ。16 喉頭全摘出患者が呼吸困難に陥った場合は、気管孔部位に酸素マスクを当てる必要がある。マスク換気が必要な場合は、小児用マスクを気管孔に被せて換気を行う。喉頭全摘出術を受けた患者のほとんどは、カフ付き気管切開チューブを留置していない。陽圧換気が必要な場合は、カフ付き気管切開チューブに交換するか、適切なサイズの気管挿管チューブを頸部の気管孔に挿入する。これらの患者は通常、気管孔が充分大きいため、チューブは容易に気管内に挿入できる。喉頭摘出術では気管が皮膚に縫合されるため、縫合糸を抜去した後でも医師が気管内チューブを誤って偽腔に進める可能性は低くなる。17 気管切開を受けた患者の場合と同様に、喉頭摘出患者の管理アルゴリズムをベッドサイドに掲示しておくと参照しやすく有用である(図6)。16
結語
臨床診療では気管切開患者にしばしば遭遇し、合併症が発生する可能性がある。しかし、推奨される管理手順を理解していれば、これらの合併症は通常適切に管理可能であり、人工気道に関連する危害を防ぐことが可能である。ベッドサイドサインは、気道に関する適切な情報を提供する効果的な方法であり、外科的気道が適切に機能していない場合に医療従事者に推奨される手順を支援する有効な手段となる。
Jack Buckley、MDは、カリフォルニア州ロサンゼルスのカリフォルニア大学David Geffen医学部の麻酔科および周術期医学科の准臨床教授である。
著者に開示すべき利益相反はない。
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