セファゾリンは現在、米国で最も多く特定されているアナフィラキシーの原因であり、10,000手術あたり1回の頻度で発生しているが、見落とされていることも多い。1 アナフィラキシーを疑う場合は、2時間以内の検体で測定した血清トリプターゼ値が、原因の特定や他の要因との区別に役立つ可能性がある。セファゾリンは、他のベータラクタム系薬とは異なりR1およびR2側鎖基を持つ第1世代のセファロスポリンで、セファゾリンアレルギー患者のほとんどにはペニシリン系薬あるいは他のセファロスポリン系薬を投与することができる。
セファゾリンアナフィラキシーはどのようなものか?実際の事例
他院で予定された右人工股関節置換術の前に、アナフィラキシーが疑われるイベントが2回みられたとして、50歳のアフリカ系アメリカ人女性がアレルギー免疫科の外来に来院した。患者には他の明らかな既往歴はなく、投薬歴はロスバスタチン20mgの長期にわたる内服とアセトアミノフェン500mgの頓用内服だった。初回は、予定された関節置換術の前にバンコマイシン2gとセファゾリン1gが投与された。鎮静薬や麻酔薬は投与されていなかった。セファゾリン投与から数分以内に、皮膚の紅潮、顔面および口唇の腫脹、低血圧が認められた。エピネフリン0.3mgが筋注され、ジフェンヒドラミン50mgとヒドロコルチゾン125mgが静注され、集中治療室で1日経過観察された。10日後、右人工股関節置換術が再び準備され、このときはセファゾリン2g(バンコマイシンなし)が投与されたが、数分以内に顔面の腫脹と紅潮が認められた。エピネフリン0.3mgが筋注され、ジフェンヒドラミン50mgが静注され、数時間経過観察されたが再発はしなかった。2か月後、患者はアレルギー外来を受診し、セファゾリンのプリックテストのあと、ペニシリン、セファゾリン、セフトリアキソンの皮内テストが実施された(図1)。セファゾリンのプリックテストが弱陽性、セファゾリンの皮内テストが強陽性、他の薬物は陰性だった。アモキシシリン250mgとセファレキシン250mgの経口チャレンジテストは問題なかった。これらのデータに基づいて、患者はセファゾリンアナフィラキシーと診断され、セファゾリン以外のペニシリン系薬とセファロスポリン系薬を服用しても安全であり、バンコマイシンを服用しても安全であることが説明された。患者のすべての電子カルテと薬局記録にセファゾリンで重篤な反応(アナフィラキシー)をきたすことを明確に記録しておくべきことと、医療用警告ブレスレットを身に着けておく必要があることが説明された。
周術期の過敏症を特定する方法は?
周術期の過敏症(Perioperative Hypersensitivity, POH)による反応は、予兆なしに突然現れる予測不可能なイベントである。軽度の反応から重度のアナフィラキシーまで程度はさまざまであり、致命的となることもある。POHの発生率は国によっても大きく異なるが、最近の研究では10,000人に1人の割合で発症すると言われている。2 POHの大部分の症例は、IgEを介したマスト細胞の活性化によって引き起こされるアレルギーによるものだと考えられている。しかし周術期に投与される多くの薬物と関連して、IgEを介さずにマスト細胞が活性化されるメカニズムもありうる。最近では、Mas関連Gタンパク質共役受容体X2(Mas-related G-proten-coupled receptor X2, MRGPRX2)が、神経筋遮断薬、バンコマイシン、フルオロキノロン、オピオイドなど特定の薬物に対する反応の原因であることが示されている。造影剤もまた、IgEを介さないマスト細胞の活性化を引き起こす可能性がある。
POHによる反応は通常、低血圧、頻脈、気管支痙攣、心停止といった心血管系および/または呼吸器系の症状を伴う。紅斑、蕁麻疹、血管性浮腫などの皮膚粘膜反応も発生しうるが、患者にドレープがかかっていて見落とされる可能性がある。心肺症状はPOHに固有のものではなく、投薬、循環血液量減少、呼吸器系の併存疾患、気管挿管の複数回試行など、他のさまざまな理由でも認められる可能性がある。最近、麻酔専門医とアレルギー専門医からなる専門家パネルが、POHによる反応の可能性を判断するのに役立つ臨床スコアリングシステムを開発した(表1)。3臨床徴候をPOHに肯定的な点数と否定的な点数別に重みづけしたスケールが表になっており、即時型過敏反応の可能性を判別できる。このスコアリングシステムは、内容、基準、識別の妥当性は確認されているものの、独立した外部組織からの検証は受けていない。3
表 1:周術期の過敏症が疑われる場合の臨床スコアリングシステム。*
心血管系(必要に応じて、まず低血圧・重度の低血圧・心停止を選択し、次に該当するその他の項目を選択する。) | 点数 |
重度の低血圧 | 6 |
低血圧 | 4 |
心停止 | 9 |
頻脈 | 2 |
麻酔中の低血圧を薬理学的に治療する標準用量の交感神経刺激薬(エフェドリン、フェニレフリン、メタラミノールなど)に対する反応が不良または持続しない低血圧 | 2 |
ポイントオブケア心エコー検査で、心臓がハイパーダイナミックで充満が不十分 | 2 |
最初のイベントの前に投与した薬物を、追加投与したあとの低血圧の再発または増悪 | 1 |
心血管系の交絡因子(該当するものを選択する) | |
1つまたは複数の麻酔薬の過剰投与 | -2 |
手術による循環血液量減少または長期の絶食/脱水による相対的な循環血液量減少 | -1 |
低血圧の原因となる急性疾患 | -1 |
麻酔中の心血管反応に影響を与える薬物 | -2 |
脊髄幹に作用する区域麻酔(硬膜外麻酔/脊髄くも膜下麻酔) | -1 |
機械的人工呼吸中に最大気道内圧を上げたあとに発症した低血圧 | -2 |
呼吸器系(必要に応じて、まず気管支痙攣・重度の気管支痙攣を選択し、次に該当するその他の項目を選択する。) | |
気管支痙攣 | 2 |
重度の気管支痙攣 | 4 |
最初のイベントの前に投与した薬物を、追加投与したあとの気管支痙攣の再発または増悪 | 1 |
気道器具の使用前に発生した気管支痙攣(気道閉塞を除外した場合) | 2 |
呼吸器系の交絡因子 | |
気道過敏に関連する呼吸器疾患 | -1 |
長時間かかったまたは複数回試行した気管挿管 | -1 |
気道器具の留置前に投与した気道反射を抑制する薬物の量が不十分 | -1 |
皮膚/粘膜(該当する項目を選択する。) | |
一般的な蕁麻疹 | 4 |
血管性浮腫 | 3 |
全身性紅斑 | 3 |
硬膜外オピオイド/脊髄くも膜下オピオイドが投与されていない患者の、痒みを伴う発疹 | 1 |
皮膚/粘膜の交絡因子 | |
ACE阻害薬を服用している患者の血管性浮腫 | -3 |
組み合わせ(最大となるいずれか1つを選択する。)** | |
心血管系>2点と呼吸器系>2点 | 5 |
心血管系>2点と皮膚/粘膜>2点 | 5 |
呼吸器系>2点と皮膚/粘膜>2点 | 5 |
心血管系>2点と呼吸器系>2点と皮膚/粘膜>2点 | 8 |
タイミング(最大となるいずれか1つを選択する。) | |
疑われている静注から5分以内の心血管系または呼吸器系の症状の発症 | 7 |
疑われている静注から15分以内の心血管系または呼吸器系の症状の発症 | 3 |
静注以外の曝露から60分以内の心血管系または呼吸器系の症状の発症 | 2 |
静注以外の曝露から60分以降の心血管系または呼吸器系の症状の発症 | -1 |
即時型過敏反応の可能性 | 総(合計)スコア |
ほぼ確実 | >21 |
可能性がかなり高い | 15~21 |
可能性が高い | 8~14 |
可能性が低い | <8 |
*表は、Hopkins PM, Cooke PJ, Clarke RC, et al. Consensus clinical scoring for suspected perioperative immediate hypersensitivity reactions.Br J Anaesth.2019;123(1):e29–e37.より引用改変。
** 3つの臓器系(心血管系, 呼吸器系, 皮膚/粘膜)のいずれかを組み合わせてスコアに反映させるには、その臓器系の合計スコアが2より大きくなければならない。合計スコアとは、肯定的な症状スコアから、否定的な症状スコアを引いたものである。 |
即時型過敏反応かどうかを確認するために最も有用な臨床検査は、血清トリプターゼ値である。トリプターゼは、アナフィラキシーが起こるとマスト細胞から放出されるタンパク分解酵素であり、マスト細胞の活性化の証拠として特異的である。トリプターゼ値は、過敏反応から2時間以内の検体で測定するのが理想的で、そうすれば過敏反応を治療するのに使用した薬物の影響は受けない。トリプターゼ値の上昇は、周術期の過敏反応を疑った場合にアナフィラキシーに対して高い陽性適中率(82〜99%)を示す。4 しかしながら、アナフィラキシーであってもトリプターゼ値の上昇(> 11.4ng/ml)がみられない場合もある。重篤な循環虚脱または心停止をきたした患者では、トリプターゼ値>7.35ng/mlはPOHに対して99%の陽性適中率を示す。急性期血清トリプターゼ値が、([1.2xベースラインの血清トリプターゼ値] + 2)より大きいことは、(特に急性期トリプターゼ値が正常値の患者で)アナフィラキシーの確認に役立ち、POHに対して94%の陽性適中率を示す。バンコマイシンを急速に注入した場合など、IgEを介さないマスト細胞の活性化でも、重篤な反応が起きることがある。5 このようなIgEを介さないマスト細胞の活性化による場合でも、約10%の症例では血清トリプターゼ値が上昇することがある。
POHには多くの原因があるが、抗菌薬、神経筋遮断薬、消毒薬は、世界中から報告されている最も一般的な原因である。2 そして米国では、POHの特定されている原因のうち最も多いのはセファゾリンであり、 POH症例の50%超に関連している。初回の曝露でも発症する可能性があるが、6 セファゾリンの感作経路は特定されていない。現在、セファロスポリン系薬のアナフィラキシーのほとんどは、R1側鎖に関連していると考えられていることを認識しておくことは重要である。セファゾリンにはR1およびR2側鎖があるが、これらは独特であり、北米で使用されている他のどのベータラクタム系薬とも共通していない。この事実に沿うと、セファゾリンにアレルギーのある患者は通常、ペニシリン系薬や他のセファロスポリン系薬にアレルギーはない。6
周術期の過敏症で検査が重要なのはなぜか?
周術期にアレルギー反応が疑われた場合には、原因となった薬物を特定するためにあらゆる診断法を用いて検査を行うことが重要である。アレルギー反応が手術前に発生して手術が中止された場合でも、検査は必要であり推奨される。アレルギー反応が発生したもののその手術は完了した場合も、多くの患者は将来的にまた麻酔を必要とする機会があるので検査が必要である。麻酔専門医とアレルギー専門医からなる専門家パネルによる国際的なコンセンサス勧告では、周術期にアレルギー反応がみられたすべての患者に対して、理想的には麻酔専門医とアレルギー専門医が協働する包括的なアレルギー評価を行うことを推奨している。7 アレルギー評価の理想的な時期は、イベントから約4週間後とされている。ただしこれはエビデンスに基づくものではない。イベントから少なくとも6か月後までの検査は依然有用である。8 一方で、セファロスポリン系薬にアレルギーのある患者の約60〜80%は、アナフィラキシーの5年後には皮膚テストの反応性を失う。9
薬物投与のタイミングや、消毒薬、ラテックス、潤滑剤、造影剤、色素剤、止血に用いられるゼラチンスポンジ、インプラント、局所麻酔薬などへの曝露に関する詳細およびアレルギーが疑われているイベントとのタイミングの関連についての情報を含む、すべての麻酔記録と手術記録を、アレルギー専門医が参照できることは重要であり、適切な評価を行うために役立つ。皮膚テストが陰性であれば、原因となりうるすべての薬物に対して、観察下に薬物の全用量を1または2段階で患者に投与するチャレンジテストが行われる。これは外来診療で実施可能である。アレルギー診療では静脈内投与のチャレンジテストはほとんど行われない。オピオイド、ベンゾジアゼピン系薬、神経筋遮断薬、プロポフォールに対するチャレンジテストも外来診療では安全に行えない。このため、皮膚テストは陰性であるもののアレルギー専門医がチャレンジテストを実施していない薬物については、次の麻酔の直前に「テストドーズ」を投与する必要がある。米国から報告された、これまでで最良のエビデンスでは、皮膚テスト陽性によって、少なくとも3分の1の原因は特定できるとされている。8 そして、アレルギー専門医が評価した患者の約10人中9人は、皮膚テストの結果に関係なく、次の麻酔時にはアレルギー反応を繰り返さない。8
手術を受ける患者のなかには、アレルギー専門医による正式な検査なしに、ペニシリンまたはセファゾリンにアレルギーがあるとされている患者もいる。そしてそのために、周術期の医療者がこの患者に投与する代替の予防的抗菌薬を探すということがよくある。しかし、手術部位感染予防として周術期に代替の抗菌薬を用いることは、感染のリスクをあげる可能性がある。10 そして、周術期のクリンダマイシン投与とバンコマイシン投与は、クロストリジウムディフィシル腸炎と急性腎障害のリスク増高と関連している。さらに、アレルギー専門医の評価なしに電子カルテにセファゾリンアレルギーと記録されている患者には、あらゆるベータラクタム系薬の投与が避けられる可能性があり、将来的にはさらなる臨床的影響を与えるかもしれない。11 セファゾリンが原因薬物だと特定された場合、他のベータラクタム系薬を使用できるかどうかは、専門のアレルギー検査で確認できる。
ペニシリンにアレルギーがあるとされる米国の患者のほとんどは、過去にみられた、良性の発疹、関連のない反応、原因不明の反応をアレルギーと報告している。このようなリスクが低いアレルギー歴の患者には、手術時の感染予防のためのセファゾリンは安全に投与できる。6 最近、Emory Univeristyの学際的グループが、ペニシリンアレルギー歴をもつ患者に周術期の予防的抗菌薬としてセファゾリンまたはセフロキシムを投与するためのシンプルなアルゴリズムを開発した。12 スティーブンス・ジョンソン症候群や中毒性表皮壊死症などの重篤な薬物反応の病歴がない場合は、ペニシリン系薬の投与後に、好酸球増加症と全身症状を伴う薬物反応、肝障害または腎障害、貧血、発熱、関節炎があったとしても、セファゾリンとセフロキシムの投与は許容される。このシンプルなアルゴリズムの運用後、セファロスポリン系薬の使用はペニシリンアレルギー患者でほぼ4倍に増加し、セファロスポリン系薬が投与された551人のペニシリンアレルギー患者のうち誰も即時型アレルギー反応を示さなかった。別の研究では、ペニシリンのアナフィラキシーが確定している患者でも、セファゾリンアレルギーのリスクは1%未満であることが明らかになった。13
POH患者に対しては、患者安全を最適化し、麻酔科医がアレルギー専門医/免疫学者と協働して原因を特定したり、抗菌薬による感染予防の重要性を考慮しながら、以降の麻酔のためにアレルギーのリスクを最小限に抑える論理的な計画を作成するといった標準的なアプローチが推奨される。1もし協働できるアレルギー専門医がいない場合、麻酔専門医はアレルギー専門医学会のリンク(https://allergist.aaaai.org/find/)からアレルギー専門医を探すことができる。さらに、COVID-19のパンデミックによる遠隔医療の拡張に伴って、このような患者を日常的に評価している主たる学術医療センターのアレルギー専門医によるバーチャル診察も可能になっており、専門的な検査に先立って正しいトリアージとリスクの層別化が可能になっている。
まとめると、POHによる反応は、稀なイベントであり、数多のものが原因となりうるが、米国ではセファゾリンによるものが最も多い。麻酔専門医とアレルギー専門医の協働によって、原因を特定し、将来にわたる安全な麻酔管理計画を立てることが可能となる。ペニシリンアレルギーとされている患者のほとんどは真のアレルギーではなく、未確定のペニシリンアレルギー患者の大多数には、アレルギー反応のリスクをあげることなく、手術時の感染予防のためにセファゾリンを投与できる。
David A. Khan, MDは、テキサス州ダラスにあるUniversity of Texas Southwestern Medical Centerのアレルギー免疫学部門の医学部教授である。
Kimberly G. Blumenthal, MD, MPHは、マサチューセッツ州ボストンのMassachusestts General Hospitalのリウマチ学・アレルギー・免疫学部門、Harvard Medical School医学部の助教である。
Elizabeth J. Phillips, MDは医学部教授であり、テネシー州ナッシュビルのVanderbilt University Medical Centerの医学部臨床研究John A. Oatesk科長である。
著者らに開示すべき利益相反はない。
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