2019年新型コロナウイルス(COVID-19)周術期の勘案事項

3月 26, 2020
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Coronavirus (COVID-19)

Liana Zucco1, 2, Nadav Levy1, 2, Desire Ketchandji3, Mike Aziz3, Satya Krishna Ramachandran1
1. Beth Israel Deaconess Medical Center, Department of Anesthesia, Critical Care & Pain Medicine, Boston, USA
2. Healthcare Quality and Safety (MHQS) Program, Harvard Medical School, Boston, USA
3. Oregon Health & Science University, Department of Anesthesiology & Perioperative Medicine, Portland, Oregon, USA

免責事項:これらのガイドラインは、手術室で短期的に麻酔器を使用した、経験を有する臨床医経験を有する臨床医の最良の判断を使用して展開されました。ガイドラインは、集中治療換気用に麻酔器を長期的に使用した経験に基づいて頻繁に更新されています。この中に提供されている情報や資料は、情報と教育的な目的に対してだけ提供されていて、標準治療を確立すること、もしくは医学的アドバイスまたは法的アドバイスを提供することを目的としているものではありません。読者は、自身の機関および指導医/法律顧問に相談することを忘れないようにしてください。

APSFのロゴ免責事項:麻酔患者安全財団(Anesthesia Patient Safety Foundation, APSF)は2019年新型コロナウイルス(COVID-19、別名2019-nCoV)感染の疑いがある、または感染が確認されている患者管理の助けとなるよう、この情報を周術期に従事する医療者に公開する。2019-nCoVの流行が急激に進んでいるため、これに関する疾病対策センターが発信する最新の情報を確認することを強く推奨する。

はじめに

中国の武漢で発生した2019年新型コロナウイルス(COVID-19、別名2019-nCoV)は犠牲者が増え続け、急速に世界規模の流行に近づいている。2020年2月10日の時点で、世界中で4万件以上の発症例が報告されている。(参考文献: WHO状況報告)。死亡率はいまだに不確実だが、2020年2月7日にJournal of the American Medical Associationでは患者138人の症例報告で、 4.3%の死亡率1 が報告された。人から人への伝染が複数例確認されている中、2-5 2019-nCoVは周術期医療に従事する全ての医療従事者に大きな危険をもたらしている。

本財団は周術期と病院の責任者に、2019-nCoV感染の疑いがある、または感染が確認されている患者に介入するための戦略的な手順を準備することを切望する。この情報の目的は、周術期医療での堅実な安全対策を提示し、これらの対策が過去のウィルス流行の教訓に基づくものだと認識することである。具体的には、これらの対策は医療の場でSARS-CoVとMERS-CoVの伝染を抑える際の成功や失敗から学んだものである。5-7

2019-nCoV病原体伝染

病原体伝染は感染性呼吸飛沫の吸入、特に飛沫の近距離(6フィート)での暴露が生じている場合と、粘膜との接触によって発生する可能性がある。伝染が汚染表面との直接的・間接的な接触から発生するかはいまだ不明だが、その後の自己接種・感染を発生しやすくする可能性がある。別のコロナウィルス(SARS-CoV)は体外で24時間生存したことが判明しているため、現時点では2019-nCoVに対して同様の推定がされる。6, 7

2019-nCoVの伝染を防ぐことが、その影響を軽減する最も効果的な公衆衛生活動である。この活動には早期の症例確認、接触者の追跡、感染者・暴露者の隔離・検疫、そして支持療法などが含まれる。緊急治療室、集中治療室、外来診療所など一般的に考えられる場所に加え、周術期の現場でのウィルスへの暴露の可能性を医療従事者が管理できるよう、病院全体のガイドラインを備えることが必要である。

我々は周術期の現場を、認識されていない2019-nCoVへの暴露の可能性がある場であると理解している。従って、周術期の伝染を軽減するための対策を行うことが必要不可欠である。2002年にトロント市で発生したSARS-CoVの流行から学んだように、院内感染は医療制度にとって深刻な脅威となり、病院制度や地域社会にとって大きな負担となる。7

SARS-CoVとMERS-CoVの流行から学んだこと

SARS-CoVとMERS-CoV症例の多くは病院での院内感染と、7 呼吸器疾患を持つ患者が使用するエアロゾルが発生する製品の使用と関連していた。気道確保など日常的な医療処置を行っている際に飛沫、喀痰、または体液と接触する可能性を考慮すると、これによって麻酔専門家、集中治療専門医、そして看護師を含む医療従事者(healthcare workers, HCW)が非常にリスクの高い状況に置かれていることになる。

トロント市のSARS-CoV流行中、既存の安全手順があったにもかかわらず、全SARS-CoV症例の半数がHCWであり、そのうちの3人が死亡した。8 トロント市のHCWで最も感染のリスクが高かったのは、気道の操作に関わった者や、ネブライザー、CPAP、BiPAP、または高流量経鼻酸素療法を通してエアロゾル化した病原体に暴露された者であった。トロント市のSARS-CoV流行のHCW感染症例はICUのSARS-CoV感染患者への挿管後に起こり、複数回の挿管を試みた時や、一部屋に人が3人以上いた際にさらなる頻度で起こった。9, 10 第二次SARS流行の時は、対策の改善と個人用保護具 (personal protective equipment, PPE)の順守が伝染を抑えた。

新型コロナウイルスの院内感染を予防することで医療従事者や、その延長線上にある患者の安全をも保護・確保するためには、病院による全面的な支持を受けた上で組織的な取り組みを実行する必要がある。

病原体伝染と麻酔作業環境

手術室内で適切な飛沫予防策または適切な除染手順に従わない場合、麻酔作業環境には飛沫が付着し、ウィルスの保菌場所となる可能性のある表面が複数ある。

前述した通り、周術期の現場で感染者または感染の可能性がある者の喀痰のエアロゾル化を促進するプロセスは、HCWがウィルス暴露されることを意味する可能性がある。麻酔専門家や集中治療専門医にとって最も高い暴露のリスクを示す時期は、主に挿管および抜管の際の、気道操作中の呼吸飛沫との直接的な接触が関係している。11, 12 また、PPEの不足、PPEの不適切な使用、そして不衛生な手指は、臨床現場のHCWへの伝染に繋がる可能性のある要因である。13

APSFによる麻酔作業環境の標準的行為の推奨事項:

症状が出現し急速に拡大する前の伝染症例などの未確認情報があるため、ウィルスに感染している患者の識別と隔離が難しい場合がある。そのため、われわれは 全患者の気道操作中、分泌物への暴露を軽減するため、医療義務基準を高めることを推奨している。

手指衛生:

頻繁な手洗いは交差感染予防に最も重要な衛生措置であり、積極的に実施する必要がある。9 各麻酔ワークステーションの上またはその近くに、アルコールベースの手洗い用ゲルを設置する必要がある。以下の場合は特に、標準指針に従って手指衛生(Hand hygiene, HH)を入念に行う必要がある。手袋を外した後、汚れたまたは汚染された部位と接触した後、麻酔器、麻酔カートおよびその内容物に触れる前、そして各患者と接触した後(例:体温計による体温測定、経鼻胃管の留置)

個人用保護具:

全ての医療従事者に個人用保護具(Personal protective equipment, PPE)を備える必要がある。医療従事者とその機関は、PPEの正しい着脱手順を見直す必要がある。実環境で(その場で)PPEを使用し、挿管・抜管の模擬訓練を実施することを検討する。これは医療従事者の間でPPEの適切な使用を促進し、規則遵守の障害となるものを識別する機会である。組織レベルでは、PPEを完全に装備できない「緊急処置の様な」crash intubationは避けるよう考慮すべきである。該当するケースにおいて、選択的および半選択的な挿管を計画する際の基準値を下げることを提案する。急性呼吸不全の患者の場合、非侵襲的換気での伝染の可能性を考慮し、早い段階で気管挿管に進むことを推奨する。

N95マスクは国立労働安全衛生研究所(National Institute for Occupational Safety and Health, NIOSH)の濾過効率基準を満たしており、大きさ0.3ミクロン以上の粒子の95%を、飛沫感染や空気感染から防御することが保証されている。適合度検定が必要であるN95マスクは、コロナウィルスの接触と飛沫による広がりを防止すると考えられている。全ての確定、または感染の疑いがある2019-nCoVの症例に加え、いかなる無症状の「open airway」ケース(例:呼吸器系への介入操作)でも、最低でもN95マスクを使用すべきである。動力付き空気浄化マスク(powered air-purifying respirator, PAPR)は優れた保護効果があり、2019-nCov感染の疑いがある、または感染が確認されている患者の気道処置での使用が推奨される。これは、N95マスク使用時のHCWのSARS-CoV感染の前例を踏まえている。

飛沫に暴露された可能性のある毛に触れることにより手を汚染するリスクを抑えるため、使い捨ての手術室での帽子や顎鬚カバーの適切な着用が必要である。暴露の危険性がある前線で働く医療スタッフに、使い捨ての防水の長袖ガウン、ゴーグル、そして使い捨ての顔面保護シールドの使用を推奨する。PPEの着脱前後の手洗いは不可欠である。

気道操作(挿管と抜管):

挿管前は、適切な手袋、フェースマスク・PAPR、アイシールドとガウンを着用して自らを保護する。挿管用器具を患者の隣に用意し、汚染された器具が移動する距離を短くするために、それらの廃棄方法を事前に計画する。挿管中は二重手袋手法を行う。外側の手袋を使用して喉頭鏡のブレードを収納し、その後できるだけ早く内側の手袋を交換する。11

抜管中は手指衛生を厳重に維持し、顔面保護シールド付きのマスクを使用し、汚染された器具を注意深く廃棄する。挿管・抜管に立ち会う職員の数を制限することで、不要な暴露のリスクを抑える。

嘔吐のリスクとそれに伴うウィルスの拡大を軽減するため、予防的制吐薬の使用を前向きに検討する。9

コロナウィルス(2019-nCoV)感染の疑いのある患者の気道確保に関する提言

出典:Kamming, Gardam and Chang; BJA 2003

一般予防策:

  1. 2019-nCoVの感染が疑われる、または確認された患者は、待機室またはPACU(麻酔回復室)に通さない。そのような場合には、職員の暴露を減らすために扉に表記がされている、指定された手術室を割り当てる。感染者は手術室にて回復させるか、またはICUの陰圧室に移送する。移送中の空気汚染を回避するため、0.3ミクロンより大きい空気中の微粒子の99.97%以上を除去すると評価されている、高品質なHMEF(人口鼻フィルター)が挿管チューブとリザーバーバッグの間に装着されていることを確認する。
  2. あなた個人の保護が最優先である。空気・飛沫・接触感染の隔離予防を達成するため、全ての医療従事者に個人用保護具(Personal protective equipment, PPE)を備えることが必要。全ての職員がPPEやその他の防護的予防策を行うために十分な時間があるよう、事前に計画を立てる。自己汚染を回避するためには、細心の注意が必要。

気道確保中:

  1. 適合度検定済みの使い捨てN95マスクまたは動力付き空気浄化マスク(Powered Air-Purifying Respirator, PAPR)、ゴーグル、ガウン、手袋、そして安全靴を使用する。二重手袋手法を行う。どの麻酔導入でも行うような標準的なモニタリングを行う。
  2. 可能ならば、挿管が行える最も経験豊富な麻酔専門家を指名する。この際、発症している患者の研修医による挿管は避ける。
  3. 特別な適応がない限り、意識下ファイバー挿管は避ける。局所麻酔薬の噴霧はウィルスをエアロゾル化させる。挿管の成功率を高めるために、ビデオ喉頭鏡の使用を検討する
  4. 患者の肺の用手換気と気道からのウィルスのエアロゾル化の可能性を回避するため、100%酸素で最低5分間preoxygenationをし、迅速導入(rapid sequence induction, RSI)を行う。
  5. 臨床的に適応があれば、RSI(輪状軟骨圧迫が行える熟練した助手がいることを確認)またはRSI変法を行う。用手換気が必要な場合、1回換気量を少なくする。
  6. 移送中の空気汚染を回避するため、0.3ミクロンより大きい空気中の微粒子の99.97%以上を除去すると評価されている、高品質なHMEF(人口鼻フィルター)がフェイスマスクと呼吸回路の間、またはフェイスマスクとリザーバーバッグの間に装着されていることを確認する。
  7. 挿管後直ちに喉頭鏡のブレードを収納する(二重手袋手法で行う)。使用済みの気道機器を全て、二重のジッパーのついたビニール袋の中に密封する。必ずその後、除染・除菌のために片付ける。
  8. 保護具を外した後は、必ず、手を洗うまでは髪の毛や顔に触れることを避ける。

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コロナウィルス(2019-nCoV)感染の疑いのある患者の気道確保に関する提言

 

参考文献:

  1. Wang D, Hu B, Hu C, et al. Clinical Characteristics of 138 Hospitalized Patients With 2019 Novel Coronavirus-Infected Pneumonia in Wuhan, China. Journal of the American Medical Association 2020. Published online ahead of print. doi:10.1001/jama.2020.1585
  2. Fuk-Woo Chan J, Yuan S, Kok K-H, et al. A familial cluster of pneumonia associated with the 2019 novel coronavirus indicating person-to-person transmission: a study of a family cluster. Lancet. 2020;6736(20):1-10. doi:10.1016/S0140-6736(20)30154-9
  3. Huang C, Wang Y, Li X, et al. Clinical features of patients infected with 2019 novel coronavirus in Wuhan , China. Lancet. 2020;6736(20):1-10. doi:10.1016/S0140-6736(20)30183-5
  4. Phan LT, Nguyen T V, Luong QC, et al. Importation and Human-to-Human Transmission of a Novel Coronavirus in Vietnam. N Engl J Med. 2020;(Panel D). doi:10.1056/NEJMc2001272
  5. CDC: Centers for Disease Control and Prevention. 2019 Novel coronavirus, Wuhan, China: 2019-nCoV situation summary. January 28 2020. https://www.cdc.gov/coronavirus/2019-ncov/index.html (Accessed February, 1 2019)
  6. Centers for Disease Control and Prevention. Interim guidance for healthcare professionals: criteria to guide evaluation of patients under investigation (PUI) for 2019-nCoV. 2020. https://www.cdc.gov/coronavirus/2019-ncov/hcp/clinical-criteria.html (Accessed February 2, 2020)
  7. Medical A. British journal o f anaesthesia. Anesth Analg. 2004;92(1):1-3. doi:10.1093/bja/aeh173
  8. Booth CM, Matukas LM, Tomlinson GA, et al. Clinical Features and Short-term Outcomes of 144 Patients with SARS in the Greater Toronto Area. J Am Med Assoc. 2003;289(21):2801-2809. doi:10.1001/jama.289.21.JOC30885
  9. Kamming D, Gardam M, Chung F. Editorial I. Anaesthesia and SARS. Br J Anaesth. 2003;90(6):715-718. doi:10.1093/bja/aeg173
  10. Caputo KM, Byrick R, Chapman MG, Orser BA, Orser BJ. Intubation of SARS patients: Infection and perspectives of healthcare workers. Can J Anesth. 2006;53(2):122-129. doi:10.1007/BF03021815
  11. Rowlands J, Yeager MP, Beach M, Patel HM, Huysman BC, Loftus RW. Video observation to map hand contact and bacterial transmission in operating rooms. Am J Infect Control. 2014;42(7):698-701. doi:10.1016/j.ajic.2014.02.021
  12. Loftus RW, Koff MD, Birnbach DJ. The Dynamics and Implications of Bacterial Transmission Events Arising from the Anesthesia Work Area. Anesth Analg. 2015;120(4):853-860. doi:10.1213/ANE.0000000000000505
  13. Munoz-Price LS, Bowdle A, Johnston BL, et al. Infection prevention in the operating room anesthesia work area. Infect Control Hosp Epidemiol. 2019;40(1):1-17. doi:10.1017/ice.2018.303
  14. Birnbach DJ, Rosen LF, Fitzpatrick M, Carling P, Arheart KL, Munoz-Price LS. A new approach to pathogen containment in the operating room: Sheathing the laryngoscope after intubation. Anesth Analg. 2015;121(5):1209-1214. doi:10.1213/ANE.0000000000000854