手術室内外における気道管理の安全性:イノベーション、安全性、および基本技能のバランス

by Avery Tung, MD, FCCM; P. Allan Klock, Jr., MD

10月 1, 2025

サマリー: 

気道管理は過去30年間で大きく進歩し、ビデオ喉頭鏡(VL: video laryngoscopy)、声門上器具(SGA: supraglottic airway)、および体外式膜型人工肺(ECMO: extracorporeal membrane oxygenation)などの現代的な機器により、転帰は改善している。しかし、認知エラー、機器への過度の依存、ならびに技能の低下により、安全性に関する課題は依然として残っており、とりわけ手術室外でその傾向が顕著である。今後は、基本的技能の維持、意思決定の改善、および専門領域を超えた連携の強化に重点を置くべきである。

重要ポイント:

はじめに

過去30年間で、麻酔診療の中で気道管理ほど大きく進化した領域はほとんどない。新たな機器、薬剤、および手技が爆発的に増加するなか、1990年に臨床に従事していた麻酔専門職は、2025年現在実践されている気道管理を見ても、それと認識することはかなり困難であろう。かつての臨床医を驚かせるであろう革新の一つは、声門上器具(SGA: supraglottic airway)がレスキューデバイスまたは挿管ツールとして使用されていることであり1、さらにビデオ喉頭鏡(VL: video laryngoscopy)が現在では日常的な気道管理においても一般的に用いられていることである。2 また、気道管理ガイドラインが現在では生理学的に困難な気道という概念を認識し、挿管試行回数を制限する重要性を強調していることにも驚くであろう。3 さらに、非脱分極性筋弛緩薬が迅速かつ完全に拮抗できることに驚き4、体外式膜型人工肺(ECMO: extracorporeal membrane oxygenation)が極めて高リスクの気道症例でますます使用されていることにも感銘を受けるであろう。5

最初の驚きが過ぎれば、かつての麻酔専門職は、以前は困難と考えられていた多くの気道に対して、現在では高い成功率をもたらすアプローチが利用可能であることを理解し、困難気道の問題はほぼ解決されたのか、それとも今日の臨床医にとってなお安全上の課題が残っているのかと思いを巡らせるであろう。さらに興味深く感じるのは、「困難な気道」をキーワードとする年間発表論文数が1990年の79件から2024年には年間450件超へと増加している一方で、有害事象として困難気管挿管が関与した解決済み請求の件数は経時的に減少しておらず、実際には、より最近の請求事例ほど、より重症の患者および手術室外の場所が関与しているという事実であろう。6

本総説では、既存の安全上の検討事項を明らかにし、安全性の向上および維持に向けた現在のアプローチを論じ、現代の気道管理における継続的課題に対処するための今後の戦略を提示する。

麻酔における気道管理

疫学

困難気道管理(DAM: difficult airway management)の際に発生する有害事象の特性を把握することは困難である。なぜなら、このような事象はまれにしか発生しないためである。それにもかかわらず、2019年に公表された気道管理に起因する医療過誤closed claimsのレビューは、このような有害事象の臨床的特徴が変化していることを示唆している。6 1993~1999年の請求事例と比較すると、2000~2012年の事例では、手術室外(OR)で緊急処置を受ける、より重症の患者が関与していることが多かった。2017年に実施された、気道管理に関連する損傷についてのノルウェーの医療過誤請求レビューでは、請求事例の37%が緊急処置中に発生しており、死亡に至った症例の半数超が挿管失敗または気管チューブの誤留置によるものであったと報告されている。7 また、2015年のUnited Kingdom National Audit Program 4では、2008~2009年に報告された気道管理合併症が収集され、死亡に至った33件の事象のうち、16件が集中治療室(ICU: intensive care unit)、3件がEmergency Departmentで発生していたことが同様に示された。8 これらの所見を総合すると、現在では、重篤な損傷につながる気道関連事象は待機的な手術室内の状況では発生頻度が低くなり、緊急時やICU、その他の手術室外の場所でより多く発生するように移行していることが示唆される。

現在の気道管理における安全上の課題

重篤なDAM合併症につながる可能性が高い臨床状況の種類にこのような変化が生じていることは、安全性向上に向けて2つの示唆を与える。重篤な転帰を伴う気道対応は、緊急時に発生し、かつ手術室外で行われる可能性がより高いため、安全な気道管理においては、想定されるDAM状況に対応するために必要な機器が、手術室外でも気道管理担当者にとって容易に利用できることを確認することに重点を置くべきである。さらに、多くのDAM状況は緊急性を伴うため、時間的切迫が生じ、これによりストレスおよび認知エラーのリスクが高まる。

ICUにおける緊急または救急の気道管理要請に端を発する場合であれ、手術室内での気道確保失敗の連続に起因する場合であれ、認知トレーニングはDAMにおいてますます重要な要素となっている。「判断エラー」が気道管理における有害事象に大きく関与していることを示すエビデンスが増えている。このようなエラーには、気道管理におけるバックアッププランの欠如、早期に応援を要請しないこと、酸素化をつなぐ手段としてSGAを使用しないこと、ならびに利用可能なすべての非侵襲的手段が失敗したことが明らかであるにもかかわらず、患者を覚醒させる、または外科的気道確保へ移行することができない(あるいはためらう)ことが含まれる。

DAM中の「判断」または意思決定エラーの原因に対処するには、おそらく多面的なアプローチが必要である。2019年のAmerican Society of Anesthesiologists(ASA)closed claims研究では、判断エラーは緊急の気道管理よりも待機的な気道管理でより多く認められた。この所見は、気道管理前のスクリーニング評価において、気道管理担当者がDAMの予測因子を認識できていなかった可能性、またはスクリーニング検査が必ずしも気道困難を予測できるとは限らない可能性を示唆している。6 いずれの可能性も、改善に向けた潜在的な方策を示している。気道管理中には、適応があるにもかかわらず速やかに外科的気道確保へ移行しないこと、これまでの試みが失敗しているにもかかわらず挿管を繰り返すこと、失敗を認めることへのためらい、あるいは従来の気道管理手技の失敗を明確に宣言しないことなど、いくつかの「認知的トラップ」が指摘されている。これらの「ヒューマンファクター」に関する問題は、メタ認知的リフレクション9やシミュレーショントレーニング10によって改善が期待できる可能性がある。さらに、事象発生後のデブリーフィングや、特定の症例に焦点を当てたカンファレンスへの参加も、パフォーマンス向上に寄与する可能性がある。11

認知エラーは、気道管理の経過に重大な影響を及ぼしうる。現在では、気道器具による操作を繰り返すことが、その後の成功可能性を低下させるだけでなく12、最終的な転帰も悪化させることを示すデータが数多く存在する。13 2022年のASAガイドラインでは、可能であれば挿管または声門上器具の試行回数を3回以下に制限するよう推奨している。3 したがって、挿管を繰り返し試みること、あるいは失敗を認めようとしないことは、成功する挿管を遅らせるだけでなく、有害事象につながる可能性がある。

既存のデータは、気道管理担当者が心肺不安定性という状況下でも困難な意思決定を行わなければならないことを示している。2024年のINTUBE研究では、ICUで挿管を要した2,964例の患者が検討され、緊急挿管中に45%が循環動態不安定、重度低酸素血症、または心停止のいずれかを経験したことが示された。14 また、2025年に報告された待機的DAM 1,295例の記述研究では、待機的に予測されたDAMであっても、心肺機能の不安定化の発生率が高いことが観察された。15 その症例群では、挿管不能を理由に中止となった症例はなかったものの、低酸素血症の発生率は50%、循環動態不安定化の頻度は20%であり、30%の患者で挿管試行回数が3回以上に及んだ。15

これらの大規模な気道管理および臨床医の行動に関する研究を総合すると、気道管理担当者は、DAMが認知的にも技術的にも困難であることを前提に臨むべきであることが示唆される。2025年においては、安全な気道管理の重要な要素として、バックアッププランを段階的に組み込んだ気道戦略の策定に加え、固執、応援要請の遅れ、危機的状況における時間経過の見失い、ならびに外科的気道確保への移行をためらうことといった認知的落とし穴を回避するためのトレーニングが、ますます重要になっている。

今後の検討事項

VL、SGA、その他の高度な気道管理機器の導入、迅速に拮抗可能な神経筋遮断薬の使用、ならびにDAMにおける認知的落とし穴の認識により、現代の気道管理は1990年代と比べて大幅に安全性が向上している。しかし、今日利用可能となっている気道管理の選択肢および戦略の「メニュー」が拡大したことにより、別の安全上の課題が新たに生じている。

これらの課題の一つは、各種挿管機器の相対的な役割である。VLは2001年まで広く日常臨床に導入されていなかったものの、コストおよび習熟曲線に関する課題を克服し、多くのDAM症例において直接喉頭鏡に取って代わるようになった。2023年に実施された重症患者の挿管に関する多施設無作為化試験では、ビデオ喉頭鏡の方が直接喉頭鏡よりも初回成功率が高いことが示され16、これを受けて、VLを挿管の標準とすべきであるとの提案が多くなされている。しかし、VLを優先的に使用することは、「初回試行ではVLを用いる」という思考が、直接喉頭鏡使用技能の徐々な低下を招き、その結果として比較試験の成績がVLに有利に傾き、さらに「初回試行ではVLを用いる」という思考回路を強化するという自己強化的な循環を生みやすいことは容易に理解できる。直接喉頭鏡の使用は、それを維持するための対策が講じられない限り、今後急速に減少していく可能性が高い。

同様に、VLおよびSGAが多様な困難気道において有効であることから、覚醒下軟性気管支鏡挿管(AFB: awake flexible bronchoscopic intubation)の役割は、ますます不明確になっている。AFBは相当な技能と訓練を要するため、代替手技を優先する傾向は、直接喉頭鏡と同様の「技能低下」の連鎖を招く可能性がある。最終的には、AFBが困難気道管理において役割を果たし続けることができるのか、また果たすべきなのかを判断するために、さらなる検討が必要である。

VLは、直接喉頭鏡やAFBと比べて習得曲線がより迅速であるため、気道管理の専門性をいかに最適に配置するかという構造上の問題も提起している。17,18 VLでは基本的な気道管理技能の習得に必要な反復回数が少ないことから、Emergency RoomおよびMedical ICUの臨床医でも幅広い気道管理サービスを提供できるようになり、現在手術室麻酔業務への需要が高い麻酔科医を解放することが可能となっている。しかし、非麻酔科医が開始した気道管理事案において、いつどのように麻酔科および外科の専門家を関与させるべきかという問題は、依然として解決されていない。非麻酔科医の気道管理担当者による初回試行は効率的である可能性が高い一方で、困難気道を認識できないこと、反復試行により気道損傷や状態悪化を招く可能性があることなどが潜在的な落とし穴として挙げられる。多職種による困難気道対応チームは一定の成果を上げているが、それでもなお、迅速に招集され、適切な対応ができなければならないという課題がある。19 DAMに関して診療科間でいかに最善に連携するかは、今後明らかに安全上の課題となる。

もう一つの未解決の課題は、胃内容物誤嚥リスクが高い患者における気道管理の最適なアプローチを明らかにすることである。現在のデータでは、輪状軟骨圧迫を併用した麻酔下挿管は、高リスク患者における誤嚥リスクを低減せず、むしろ喉頭鏡視野を悪化させる可能性が示唆されているが、20 覚醒下、局所麻酔下、またはAFBによるアプローチのいずれがより適切であるかは明らかではない。両手技を比較した前向き無作為化試験はこれまで実施されておらず、1989年の前向き観察研究では、AFBにより挿管された高リスク患者123例に明らかな誤嚥は認められなかったものの、10例に喉頭痙攣が発生し、32例で重度の咳嗽がみられた。21 安全面の観点からは、臨床医の間でAFB技能を維持するための方策と、誤嚥高リスク患者における最適なアプローチを明らかにすることの両方が、今後重要な安全上の課題である。

もう一つの潜在的な安全上の課題は、高度の胸骨下甲状腺腫患者のような極めて困難な気道症例に対して、ECMOを運用面でどのように活用するかである。解剖学的に困難であることに加え、大きな甲状腺腫は外科的気道確保を困難にすることが多く、このような患者では声帯下の気管圧迫により気管チューブの通過が妨げられる可能性がある。縦隔腫瘤患者において適切なガス交換を回復し、必要に応じて血行動態の支持も提供することにより、静脈-静脈ECMOまたは静脈-動脈ECMOは、気道管理中の酸素飽和度低下または高炭酸ガス血症のリスクを低減しうる。22

気道管理に対してECMO補助を提供することは複雑であり、ECMO担当臨床医(通常は循環器内科または心臓外科)と気道管理チームとの強固な連携を要する。22 課題としては、気道管理前に覚醒下患者へECMOを導入するか、大腿血管にあらかじめシースを留置したうえで待機的支援を行うか、あるいは気道管理が失敗して緊急救済が必要となった場合に備えてカニュレーション可能な体制を整えておくか、などが含まれる。ECMOが緊急救済のために必要となる場合、時間依存性の高い対応を成功させるうえで、トレーニングが重要な要素となる。現在のところ、ECMOサービスは主として大規模な大学病院または都市部の医療センターに限られているが、ECMO技術の普及が進むにつれて、その利用可能性は向上する可能性がある。DAMに対してECMOをいかに効果的に運用するか、また救命のために関係者をどのように訓練するかをより深く理解することは、今後の重要な安全上の課題となる。

まとめ

現代の気道管理はかつてないほど安全になっているものの、なお課題は残されており、安全な気道管理の実践を維持するという課題はますます複雑になっている。従来は困難であった多くの気道も、現在ではVLによって容易に管理できるようになっており、またSGAをレスキューデバイスおよび挿管ツールとして使用することも広く認識されている。しかし、挿管機器および手技の多様化は、新たな安全上の課題を提起している。その中には、日常的な気道管理でVLが第一選択となりつつある状況下で直接喉頭鏡の技能をいかに維持するか、高リスク患者における誤嚥をいかに最小化するか、認知的トラップを回避するための行動戦略を開発・教育すること、ならびに特に高リスクの気道症例においてECMO補助を事前導入、待機、または救済シナリオにどのように統合するかといった課題が含まれる。これらの課題に対する解決策は、将来の気道管理をさらに安全なものにする可能性が高い。

 

Avery Tung, MD, FCCMは、University of Chicago(Chicago, IL)麻酔・集中治療部門における教授兼Critical Care部門長である。

P. Allan Klock, Jr., MDは、University of Chicago(Chicago, IL)麻酔・集中治療部門の教授兼部門長である。


Avery Tungは、『The Pocket ICU 3rd edition』の共著者として印税を受領しており、Anesthesia & AnalgesiaのCritical Care Section Editorとして給与を受けている。

P. Allan Klock は利益相反はないと開示している。


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