麻酔専門家として、我々は危機に直面している。我々の専門性は、合併の時期、臨床の迅速な統合、我々の自治に劇的に影響を及ぼす医療従事者に対する流れに直面している。一括払い、報酬減少、電子健康記録(Electronic Health Record, EHR)システム、能力に基いたインセンティブ支払いシステム(Merit-based Incentive Payment System, MIPS)、Medicareアクセスおよびチップ再認証法(Medicare Access and CHIP Reauthorization Act, MACRA)といった略語に日々囚われている。看護師や医師の不足に直面する一方、麻酔サービスの需要は高まっている。 1さらに、現地の競合相手と効率的に競争するため、病院の品質指標や患者満足度あるいは患者に対するロイヤルティ評価の国内基準を満たすかそれを上回るためのプレッシャーが内外部から重くのしかかっている。2,3 過去10年間で、ヘルスケアでも医療従事者の燃え尽き症候群が大幅に増加しており、麻酔専門家もまたこの拡大しつつある流れから逃れられないことは明らかである。この記事は燃え尽き症候群の原因を分析し、リスクを軽減する可能性がある解決法について考察する。
燃え尽き症候群の定義と原因
燃え尽き症候群は症状のパターンであり、医療従事者においては、身体的、感情的な極度の低下、皮肉な考え方、仕事への取り組みの低下などの症状が報告されている。2 これは、個人的にも仕事においても重大な結果につながる。例えば、燃え尽き症候群を抱える医師は、人間関係の崩壊、アルコール・薬物乱用発生率の増加、うつ病、さらには自殺のリスクが高いことが研究で示されている。3
Mayo Clinicは、労働量、ワークライフバランス、コミュニティー意識(一体感)など、燃え尽き症候群に重要な役割を果たしうるいくつかの側面を概説している(表1)。3 Shanafeltらによると、麻酔科医は、他の医師よりも燃え尽き症候群の発生率が高い。実際、2014年には、麻酔科医の50%以上が燃え尽きを感じていると報告している。この割合は2011年から大幅に増加し、一般職業人口の2倍である。4,5
表1:燃え尽き症候群で重要な役割を果たす要因3
仕事の量とノルマ |
コントロールと柔軟性 |
ワークライフバランス |
社会的サポート・職場でのコミュニティ |
個人と組織の価値観の相違 |
生産プレッシャー |
仕事のやりがい |
ここ数年、我々の職場では、医療従事者一人当たりの患者数、時間、労力が大幅に増加している。Medical Group Management Association(MGMA)のデータは、我々の専門分野全体にわたって見られるこの傾向の拡大を裏付けるものである。6 麻酔専門家の労働時間は長くなり、勤務場所はさらに広範囲に広がり、電子健康記録の前でより多くの時間を費やし、スケジュールはますます管理しづらくなっている。これに加え、我々麻酔科の労働力の中で最も急速に増えているセグメントであるミレニアル世代にとっては、ワークライフバランスが最優先事項であるという事実が加わる。7
燃え尽き症候群を抱える専門家は、生産性が低く、離職の可能性が高く、今後の作業労力が低減する可能性が高い。言うまでもなく、これは患者に大きな影響を与える。燃え尽き症候群を抱える医療従事者が質の低いケアを提供した結果、患者の満足度スコアが低下し、医療ミスを起こす可能性がより高くなる。8 したがって、医療従事者の苦痛は、医療センターで測定する必要がある品質指標かもしれない。3
臨床現場では、燃え尽きスコアと医療ミスの間に存在する用量反応関係が示されている。8 燃え尽き症候群は、ミスがストレス、ストレスがミスにつながる双方向関係で表される。9 麻酔専門家として、我々は、患者の容体の悪化または患者の死亡と無縁ではない。ある研究では、麻酔科医の84%が少なくとも一人の患者の予期せぬ死や重傷化を経験し、多くが個人的責任を感じていることを示唆している。10 これらの経験は、医療従事者にとって鬱、アルコール乱用、または転職の検討の原因となる可能性がある。67%の回答者がこのような体験が自身の医療業務に当面の間影響を及ぼす可能性を感じているにもかかわらず、自分の考えを整理し、個人的な回復を開始する時間を与えれられたのは、7%のみであった。10
燃え尽き症候群を削減する我々の取り組み
Mayo Clinic(ミネソタ州ロチェスター)で実施されたさまざまな調査では、表1に列挙されている要因が全体的な満足度および医療従事者の雇用に影響を及ぼしている可能性があり、組織レベルで対処されるべきであることが示唆されている。それぞれの次元に注意深く焦点を当てることで、業務に熱心な専門家の文化を育みながら、燃え尽き症候群を最小限に抑えることができる。11
我々の機関での燃え尽き症候群軽減
我々の医療施設は急激な成長を遂げており、現在4つの病院と5つの救急センターに対応している。そのため、専門家のスケジューリングにおいていかに生産性を高めるかを考える必要があった。我々と共に働く一般的な麻酔専門家は、通常1週間に異なる病院を3―4箇所 回る必要がある。これは、特に増加する異なる場所への移動に主に責任を負う公認登録麻酔専門看護師(Certified Registered Nurse Anesthetist, CRNA)の不満の重大な原因となった。
これに対処するために、我々はCRNAが彼らが働きたい場所をランク付けできるようにする新しいシステムを開発した。リアルタイムの意思決定支援アルゴリズムは、どのCRNAが各施設でケアを提供し、各個人の希望場所を同僚との間で調整するべきかを優先順位付けするようになった。現在のシステムでは、80%の頻度でCRNAを第1または第2の希望地に送ることができる。最も重要なのは、我々のCRNA(70件中36件が回答)のうち、最近のアンケート(1〜5段階評価、5が非常に満足)では86%が仕事に割り当てられた場所に満足あるいは非常に満足していて、以前と比べて著しい改善が見られたことである。12
また、燃え尽きの原因と症状についての医療従事者の教育とオープンなディスカッションの促進によって、率直な文化を育むことが重要であると考えている。我々の実務では最近、いくつかの重要な、個人的な悲劇を経験した。我々は迅速にこれらの予期しない出来事を克服するのに必要な専門知識を部門リーダーに提供するために、外部のウェルネス専門家の助言を求めた。ウェルネスイニシアチブが長期的な利益につながると結論づけるのは時期尚早だが、最近の調査では良い結果が出ている。調査した麻酔科医とCRNA(N=90)のうち、70%が将来のウェルネスイベントに参加する予定であり、42%はそのイベントは全体的な職務満足度を向上させる情報やスキルを少なくともいくつかは提供していると答えた。13
労働時間の柔軟性も、変化する労働力の人口動態にとってますます重要になっている。調査によれば、これは医療従事者の満足度は高めるが、患者の満足度、看護ケアの質や効率性に悪影響を及ぼすことはない。14 過去15年間、我々の部門ではフルタイムで働く専門家の割合が大幅に変化した。パートタイムの雇用により、我々専門家は、仕事をする時間帯に柔軟性ができ、毎日の人材ニーズに応じて柔軟に対応できるようになった。
満足度とワークライフバランスを向上させる努力の後、ストレスと燃え尽き症候群のリスク要因を評価するためにスタッフを調査した(N=90)。13 結果は、部門の54%が仕事に満足し、36%が非常に満足していた。さらに、麻酔専門家の70%が、多くの場合、あるいは常に、適切なワークライフバランスであると報告している。13 また、スタッフの職場での平均ストレスレベル、疲労感、患者への思いやり、および職場での達成感を調査した。回答者の47%は中等度のストレスを報告し、スタッフの24%は強いストレスを経験したと報告している。さらに、回答者の20%が強い疲弊感を、32%は中等度の疲弊感を感じていると報告した。調査結果によると、回答者のわずか8%のみが、患者に対する思いやりが少し低下したと報告し、52%は働き始めてから患者に対する思いやりは減少しなかったと報告した。最後に、自分がすべきであると思うよりも仕事の達成度が低いかどうかを尋ねると、38%が時々この経験があると報告し、57%がこの気持ちをまれにしか、あるいは全く経験しなかったと報告した。13
結語
麻酔専門家の半数以上が燃え尽き症候群に苦しんでいる。4,15 適切な教育と意識を持つことで、専門家、実践者、組織にこの大きくなる流れを改善するために必要なツールを提供することができる。我々はこれを意識し、創造性、そしてオープンな心で常に変化する医療現場に立ち向かう必要がある。アメリカの元公衆衛生局長官のVivik Murthy医師は、「医療従事者が健康でなければ、彼らがケアする人々を癒すことは難しい」と述べている。16 これまで以上に、文化、士気、医療従事者の幸福感が我々の中核価値の一部となることが不可欠である。
Natalie Taranturは現在、NorthShore University HeathSystemの認定麻酔看護師である。
Dr. Deshurは現在、NorthShore University HealthSystemの麻酔科の手術部門の副部長であり、University of Chicago Pritzker School of Medicineの麻酔科の臨床准教授である。
両著者は、この記事に関し利益相反はないことを開示しています。
参考文献
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