http://journals.lww.com/anesthesia-analgesiaよりダウンロード。2023年6月28日にアクセス。
Anesthesia & Analgesia 137(2):p e8-e11、2023年8月から転載。DOI:10.1213/ANE.0000000000006539は国際研究協会の許可を取得。専門職の称号と命名法は、本文の中でAPSFポリシーと一致するように標準化および変更済みである。 |
用語集:APSF = Anesthesia Patient Safety Foundation; ASA = American Society of Anesthesiologists; NORA = nonoperating room anesthesia(非手術室外麻酔); OR = 手術室
非手術室麻酔(NORA: Nonoperating room anesthesia)症例は、近い将来、全麻酔症例の50%を超えると予測されている。1 ある大規模研究ではNORAと手術室(OR)麻酔との間に死亡率の差が示されなかったが、2 American Society of Anesthesiologists (ASA)のクローズドクレームデータベースのデータを複数分析した結果、NORAでは手術室で発生する頻度のほぼ2倍有害事象が発生することが明らかとなった。2-4
NORAにおける患者の安全は、人間工学、場所、スタッフ配置、チームワークとコミュニケーション、機器へのアクセス、適切な術前最適化の欠如などの問題によって損なわれる可能性がある。非手術室の麻酔に関するASAの声明以外に、NORAで安全なワークフローを確立、維持、標準化する方法について広く利用できる推奨はない。5
2022年、麻酔患者安全財団(APSF: Anesthesia Patient Safety Foundation)は学際的な専門家グループを招集し、「オフィスでの麻酔および非手術室の麻酔における患者安全の重要な問題」に関する年次シュテルティング コンセンサスカンファレンスを開催した。この会議の目的は、施設と場所、設備と消耗品、スタッフ配置とチームワーク、患者の選択、周術期ケア、質の向上の分野に関するNORAのベストプラクティスについてコンセンサスを得られた推奨事項を決定することであった。我々のプロセスと結果の簡単な概要は次のとおりである。
方法
カンファレンス計画委員会(著者ら)は、NORA特有の課題に対処するカンファレンスプログラムを作成した(表1)。同時に、彼らは NORA推奨の最初の草案を作成し、その後改訂しカンファレンスの講演者と出席者に送信した。推奨事項はフィードバックに基づいて改訂され、会議中に分科会に提示された。その後、追加のフィードバックと修正が最終日にすべての会議出席者に提示され、議論と投票が行われた。会議後、会議計画委員会、講演者、参加者からさらに修正が加えられ、合意に基づいた推奨事項が作成された(補足デジタルコンテンツ1、表1、http://links.lww.com/AA/E369)倫理的考慮事項、包含基準と除外基準、講演者のリスト、およびコンセンサス形成プロセスの詳細については、補足デジタルコンテンツ2付録A、http://links.lww.com/AA/E370を参照のこと。
表 1:2022年Stoelting Conference Sessionの説明
補足表1:NORA施設における麻酔ケアの安全な実施に関するコンセンサスの概要
施設 |
|
機器、医薬品、および消耗品 |
|
スタッフとチームワーク |
|
手術前のケアと患者の選択 |
|
処置中のケア |
|
術後のケア |
|
継続的な品質向上 |
|
NORA、非手術室麻酔。または、手術室。PACU、麻酔後ケアユニット。MH、悪性高熱症。 MRI、磁気共鳴画像法。ACLS、高度心臓血管救命処置。BLS、基本的救命処置。PALS、小児高度救命処置。BMI、肥満指数。OSA、閉塞性睡眠時無呼吸症候群。ASA、American Society of Anesthesiologists |
結果
42件の推奨事項の概要は、補足デジタルコンテンツ1、表1、http://links.lww.com/AA/E369に示されている。これらの推奨事項は、NORAでの麻酔または鎮静の実施に適用される。NORAの場所としては入院患者と外来患者の非手術室処置エリアなどが該当し、歯科治療のようなオフィスベースのエリアも含まれる。これらの推奨事項は、次の領域に関連している: 施設(9件の声明)、設備、医薬品、消耗品(16件の声明)、スタッフとチームワーク(4件の声明)、処置前のケアと患者選択(6件の声明)、処置中のケア(2件の声明)、処置後のケア(3件の声明)、および継続的な質の向上(2件の声明)。
討論
NORA環境は、患者安全上の懸念と高いストレスを抱えていることが知られている。6,7 非手術室麻酔に関するASAの声明は、主に施設と設備の問題に関連する NORAの安全上の考慮事項に関する手引きを提供している。APSF推奨事項はこれらの考慮事項に基づいており、NORAにおける重要な患者安全問題であるチームワーク、人材、術前の最適化を改善するための指針を臨床医に提供している。1,5
この推奨は、NORAの安全上の問題の原因として挙げられている多くの分野、つまり施設と場所、機器と消耗品へのアクセス、チームワークの問題、周術期ケア、質の向上に言及している。手術室外での麻酔の実施の必要性はこの10年間で急激に拡大したが、8,9 NORAを優先して建設されている病院はほとんどない。したがって、麻酔科は、他の目的のために設計されたスペースに安全な麻酔ケアに必要なものを追加導入しなければならなくなった。NORAはメインの手術室とは別のフロアにある場合や、別の建物内にある場合もあり、緊急時に追加の人員や機器に迅速にアクセスすることができない。これらのコンセンサスに基づく推奨事項は、施設に求める明確な基準を確立しており、これには、可能な場合に近接した処置エリアとメインの手術室をグループ化すること、清掃機能と十分な酸素供給の確立、安全なケアを促進するための十分なコンセントと照明の必要性などが含まれる。
NORAの多くは、安全な麻酔ケアを実施するための十分な設備を備えておらず、患者の安全性を損ねる可能性がある。2,10 これらの推奨事項は、緊急気道確保器具を準備し、悪性高熱症や局所麻酔薬中毒の治療を可能とするよう施設の基準を規定している。コンセンサス推奨事項は、臨床医の安全に関するガイドラインも提供する。多くの場で臨床医はX線透視下での処置を行う。実際、麻酔担当者も処置者と同等の放射線被曝をしている可能性があるため、放射線からの十分な防護が必要である。11
多くの処置部門で、処置担当者と看護チームは麻酔チームとの連携にそれほど慣れていないかもしれない。この不慣れは、チームのダイナミクスの悪化や「帰属意識」の欠如につながるかもしれず、患者の安全を妨げる可能性がある。7 チームメンバー間および麻酔に関する手技と懸念事項の不慣れ、ならびにコミュニケーション不足は、NORAで有害事象を引き起こす可能性がある。1,2,12-14 NORAの物理的空間、人間工学、場所を変更するのは難しいかもしれないが、人的要因に関連した介入は実装が容易である可能性がある。これらの分野で患者の安全性を向上させるには、チームワークとコミュニケーションの改善が不可欠であり、チームトレーニング、小規模で献身的なチーム、複雑な症例に関する知識の共有によって促進できる。
NORAでは生産上の大きなプレッシャーがかかり、ショートカットにつながる可能性がある。コンセンサス推奨事項では、徹底的な術前精密検査と、処置開始前の標準化されたコミュニケーション(例:正式なタイムアウト)を推奨している。周術期のモニタリングは、ASAが定めた基準に従って行うべきである。15,16 この推奨事項では、継続的な質の向上に焦点を当てて、麻酔と処置の両方の観点から症例のケアの質を見直す必要性も認めている。
NORAにおける麻酔ケアを改善する方法については、他にも推奨事項がある。特に、Herman他1 は、NORAの安全性問題に関する最近のレビューを発表し、エンジニアリングフレームワークを使用して改善のための推奨事項を提示した。ここで紹介する推奨事項は、NORAの広範な専門知識を持つ臨床医と医療担当者の学際的な集団から生まれたものであるため、他の推奨と異なる。彼らは、反復的なプロセスを通じて、NORAで安全に麻酔を実施するためのアプローチについてのコンセンサスステートメントを提供してきた。実際、これらのコンセンサス推奨事項は既存の文献を補足するものであり、以前の研究と組み合わせて使用する必要がある。
ほとんどの一般原則は会議出席者と専門家の大多数によって合意されたが、推奨事項の範囲については作成過程中に最も多くの議論が生まれ、情熱が注がれた。推奨の範囲を入院患者のみに狭めるのか、それとも外来麻酔とオフィスベースの麻酔に対して別々の推奨を設けるのかについて、広範囲にわたる議論が行われた。これはおそらく、入院患者、外来診療、オフィス診療を含むNORA診療の多様性を反映していると考えられる。特に、小児歯科症例における患者への危害の例は、重要な議論を引き起こした。17 実際、入院患者の罹患率や処置の複雑さは、外来患者やオフィスベースの複雑さとは大きく異なり、入院患者のNORAに必要な施設と人員の要件が外来またはオフィスベースのNORAにも求められるべきかについて、広範な議論が行われた。一部の要件は不可能な場合がある。たとえば、麻酔前と麻酔後のケア領域を個別に設けるなどである。コンセンサス推奨事項は、NORAにおける安全な患者ケアのための「最低限」であり、すべての NORAに適用されることを目的としている。多くの共通の患者安全要素は、NORA集団全体に適用され、最終的な推奨事項は、入院患者、外来患者、およびオフィスベースの NORAに勤務する臨床医によって支持された。
これらの推奨事項はNORA麻酔専門チームが患者の安全性を向上させるための出発点を提供するが、実装のための戦略については、個々の施設と病院システムに固有である可能性があるため、提供していない。推奨事項を作成するプロセスには他にもいくつかの制限があった。第一に、カンファレンス自体の内容と焦点は、NORA診療中の重要な考慮事項をすべて完全には捉えていない可能性がある。第二に、推奨事項の最終草案は、小規模な専門家グループによって作成された最初の草案に依存しており、各専門家はNORAのベストプラクティスに関して偏見を持っている可能性がある。第三に、計画委員会のメンバーと講演者は主に学術の出身者であり、それが推奨自体の内容に偏りをもたらす可能性がある。第四に、麻酔科以外の専門科が代表として参加したが、それらは個々の専門科であり、専門科全体を代表しているわけではない可能性がある。第五に、カンファレンスの参加者は自ら参加を選択した人たちであり、一般の医学界の代表ではない可能性がある。最後に、すべての参加者にとって包括的で心理的に安全な環境を作り出すために多大な努力が払われたが、グループディスカッションが反対の見解の抑圧や、表現されていない反対や支持につながった可能性がある。マルチラウンドの調査と推奨事項のレビュープロセスは、他の参加者に対する匿名性が可能になった。しかし、会議の分科会、討論、投票セッションは、議論の公共性と、意見を公に共有することに対する参加者の当然の消極性によって影響を受けた可能性がある。
要約すると、これらの推奨事項は、NORA患者の安全性向上に向けた新たな一歩を表している。これらは、患者の利益を最優先にして、医療システムのNORAコンポーネントから医療ミスを排除するようにシステムの再構築を促進することを目的としている。NORAの症例は今後も麻酔診療の中でますます多くの割合を占め、臨床医は引き続き患者の安全を擁護し続けなければならない。
*イリノイ州シカゴのPatient Care Solutions、GE HealthCareの医務局; †David Geffen School of Medicine、麻酔科および周術期医学科; カリフォルニア大学ロサンゼルス校; ‡ワシントンDCのCase Western Reserve University School of Medicine、麻酔科および周術期医学科; §オハイオ州立大学麻酔科およびオハイオ州コロンバスのWexner Medical Centerより。
2023年4月6日に出版が受理。 資金提供:このカンファレンスは、麻酔患者安全財団から資金提供を受けました。 この記事の補足電子資料。直接URLは印刷されたテキストに表示され、雑誌のウェブサイト(www.anesthesia-analgesia.org)に記事のHTMLおよびPDF版で提供されている。 Ohio State University and Wexner Medical Center(住所:410 West 10th Ave, Columbus, OH)のRichard D. Urman, MD, MBA宛にご連絡ください。電子メール: [email protected] Copyright © 2023 International Anesthesia Research Society |
J.W. Beard, MDはGE Healthcare-Patient Care Solutionsの最高医療責任者である。
Emily Methangkool, MD, MPHは、カリフォルニア州ロサンゼルスのUCLA, David Geffen School of Medicineの臨床麻酔科学の准教授である。
Shane Angus, CAA, MSAは、ワシントンDCのCase Western Reserve University School of Medicine医学部の助教授(日本の講師または助教に相当)である。
Daniel J. Cole, MDは、APSF会長であり、カリフォルニア州ロサンゼルスのUCLAの臨床麻酔科学の教授である。
Richard D. Urman, MD, MBAは、オハイオ州コロンバスにあるオハイオ州立大学のJ. Jacoby麻酔科学主任教授である。
J.W. Beardは、GE HealthCareの従業員であり株主である。Emily Methangkoolは、UpToDate社から著者印税を受領しており、Edwards LifeSciences社(講演者事務局および試験運営委員会)から謝礼金を受領している。Daniel J. Coleは、この会議を後援したAnesthesia Patient Safety Foundation会長である。R. D. Urmaは、AcelRx、Covidien、Pfizer、Merckからの手数料/資金を報告している。Shane Angusには開示すべき利益相反はない。
本原稿は、Richard C. Prielipp, MDが担当した。
参考文献
- Herman AD, Jaruzel CB, Lawton S, et al. Morbidity, mortality, and systems safety in non-operating room anaesthesia: a narrative review. Br J Anaesth. 2021;127:729–744. PMID: 34452733
- Metzner J, Posner KL, Domino KB. The risk and safety of anesthesia at remote locations: the US closed claims analysis. Curr Opin Anaesthesiol. 2009;22:502–508. PMID: 19506473
- Robbertze R, Posner KL, Domino KB. Closed claims review of anesthesia for procedures outside the operating room. Curr Opin Anaesthesiol. 2006;19:436–442. PMID: 16829728
- Woodward ZG, Urman RD, Domino KB. Safety of non-operating room anesthesia: a closed claims update. Anesthesiol Clin. 2017;35:569–581. PMID: 29101947
- American Society of Anesthesiologists. Statement on nonoperating room anesthetizing locations. 2018. https://www.asahq.org/standardsand-guidelines/statement-on-nonoperating-
room-anesthetizing-locations. Accessed February 28, 2023. - Alfred MC, Herman AD, Wilson D, et al. Anaesthesia provider perceptions of system safety and critical incidents in non-operating theatre anaesthesia. Br J Anaesth. 2022;128:e262–e264. PMID: 35115155
- Schroeck H, Taenzer AH, Schifferdecker KE. Team factors influence emotions and stress in a non-operating room anaesthetising location. Br J Anaesth. 2021;127:e95–e98. PMID: 34253321
- Nagrebetsky A, Gabriel RA, Dutton RP, Urman RD. Growth of nonoperating room anesthesia care in the United States: a contemporary trends analysis. Anesth Analg. 2017;124:1261–1267. PMID: 27918331
- Louer R, Szeto M, Grasfield R, et al. Trends in pediatric non-operating room anesthesia: data from the National Anesthesia Clinical Outcomes Registry. Paediatr Anaesth. 2023;33:446–453. PMID: 36726283
- Chang B, Kaye AD, Diaz JH, et al. Interventional procedures outside of the operating room: results from the national anesthesia clinical outcomes registry. J Patient Saf. 2018;14:9–16. PMID: 29461406
- Anastasian ZH, Strozyk D, Meyers PM, et al. Radiation exposure of the anesthesiologist in the neurointerventional suite. Anesthesiology. 2011;114:512–520. PMID: 21285864
- Girshin M, Shapiro V, Rhee A, et al. Increased risk of general anesthesia for high-risk patients undergoing magnetic resonance imaging. J Comput Assist Tomogr. 2009;33:312–315. PMID: 19346867
- Webster CS, Mason KP, Shafer SL. Threats to safety during sedation outside of the operating room and the death of Michael Jackson. Curr Opin Anaesthesiol. 2016;29:S36–S47. PMID: 26926333
- Yeh T, Beutler SS, Urman RD. What we can learn from nonoperating room anesthesia registries: analysis of clinical outcomes and closed claims data. Curr Opin Anaesthesiol. 2020;33:527–532. PMID: 32324655
- American Society of Anesthesiologists. Standards for basic anesthetic monitoring. 2020. https://www.asahq.org/standards-and-guidelines/ standards-for-basic-anesthetic-monitoring. Accessed February 28, 2023.
- Apfelbaum JL, Silverstein JH, Chung FF, et al; American Society of Anesthesiologists Task Force on postanesthetic care. Practice guidelines for postanesthetic care: an updated report by the American Society of Anesthesiologists task force on postanesthetic care. Anesthesiology. 2013;118:291–307. PMID: 23364567
- Society for Pediatric Anesthesia. Joint statement on pediatric dental sedation. 2019. https://pedsanesthesia.org/joint-statement-on-pediatric-dental-sedation/ Accessed February 28, 2023.