小児患者の周術期院内搬送に関連する有害事象のレビューと安全性向上に関するガイダンス

Anila B Elliott, MD; Anne Baetzel, MD; Jessica Kalata, MD; and Bishr Haydar, MD

病院内搬送は多くの入院患者で頻繁に行われる。重症の小児は、平均して少なくとも週に一回、有害事象を経験しうる特に脆弱な集団である。1 これらの患者を病院内で搬送する場合、さらなる危険が生じ、有害事象のリスクが高まる。2 搬送プロセスは一連のステップに分解でき、それぞれに特定のリスクが伴う。これらのリスクは数多くあるが、搬送プロセスに特有のリスクはほとんどない。小児の院内搬送および関連する有害事象に関して入手可能な文献は不足している。そこで、私たちは、小児麻酔の質向上のためのイニシアチブであるWake Up Safeデータベースで、麻酔が関連する周術期搬送時の有害事象についてレビューした。以下に、データベースから取得した気道と呼吸関連の有害事象の例をいくつか示し、搬送プロセスの複雑さについて説明する。

気道および呼吸管理管理の症例提示

ケース#1:生後2週間、在胎32週の未熟児が、壊死性腸炎と推定され、手術室(OR)でほとんど問題なく試験的開腹術を終えた。集中治療室(ICU)に到着すると、乳児は呼吸療法士により人工呼吸器に繋ぎかえられた。その時人工呼吸器のチューブが落下し気管チューブがずれた。患者の状態は急速に悪化し、胸骨圧迫と再挿管が必要となった。数分間の心肺蘇生(CPR)後、循環が再開し、患者の状態はその後数時間かけて安定した。

ケース#2:脳室腹腔シャント留置後の先天性水頭症、繰り返す肺炎、呼吸不全などの複雑な病歴を有する生後8か月の乳児に、気管切開術が予定されていた。患者は気管挿管管理下で手術室に搬送された。患者をストレッチャーから手術台に移送した後、チームは患者をジャクソン・リース回路による自発呼吸状態から機械的人工呼吸換気に切り替えた。この1分以内に、患者の換気が困難になり、低酸素血症からほぼ心静止になった。CPRが開始され、気管チューブの位置のずれを考慮し再度喉頭展開が行われた。再挿管を行いその後すぐに正常なサイナスリズムに回復した。事後調査では気管支けいれんと診断され、その日の朝の定期的な胸部X線検査で気管チューブ先端が右気管支に位置していたことが指摘された。このことについては、タスクが過負荷であったこともあり、搬送前に麻酔チームによって検討されていなかった。

ケース#3:鎮静および神経筋遮断薬使用後の換気の変化:ICUにいる挿管中の生後11か月の乳児は、早朝にファロー四徴症修復術後の出血のため再手術が必要となっていた。手術室への搬送に備えチームはミダゾラムとロクロニウムを投与した。薬の投与後すぐに、患者の手動換気が困難になった。患者はすぐに低酸素状態になり、その後PEA(pulseless electrical activity)となった。CPRが開始され、蘇生中に気管チューブから大きな粘液栓が吸引された。その後、換気は劇的に改善し、循環が回復した。その後の処置と周術期の搬送には、さらなる問題は起こらなかった。

気道および換気管理のリスク

図1a: Hollister(Hollister Inc., Libertyville, IL)の気管チューブホルダーで固定された気管チューブ。アンビューバッグ(Ambu Inc., Columbia, MD)に取り付けると、回路/換気システムの重量を軽減せずにねじれが生じる。

図 1a:Hollister(Hollister Inc.)気管チューブファスナーで固定された気管チューブ。アンビュバッグ(Ambu Inc.) に繋ぐと、回路/換気システムの重みでねじれが発生する。

重症かつ麻酔下の小児患者の搬送における合併症の大部分は、本質的に呼吸器系の合併症である。3 Wake Up Safeデータから、搬送関連トラブルの約40%は生後6か月以下の患者で発生し、大部分はAmerican Society of Anesthesiologists(ASA)PS3以上の患者であった。3 報告された事故抜管15件のうち14件は生後6か月以下の患者に発生し、15件中11件は体重4kg未満の患者に発生した。事故抜管率が高い理由の1つは、新生児ICUで気管チューブを第1胸椎と第2胸椎の間に留置する習慣であり、これにより均一に換気され、局所的な肺間質性気腫、気胸が軽減する。4 ただし、頭頸部を伸展した場合、気管チューブが頭側に移動し事故抜管のリスクを高める可能性がある。5,6 逆に、気管チューブが気管分岐部の近くにあると、気管支挿管となり、低酸素血症、高炭酸ガス血症、気胸、粘膜損傷を引き起こす可能性がある。4,7 したがって、このリスクを軽減するためには、直近の胸部 X 線写真を確認し、搬送時には 気管チューブを胸部気管の中央に留置することが推奨される。両側の呼吸音の聴診や連続カプノグラフィーの連続利用も、これらのリスクを軽減しうる。頭部を安定させるために枕を使用し、搬送中に気管チューブに張力がかからないように注意する。ICU内で使用している張力を軽減するための人工呼吸器回路ホルダーを搬送時に取り外すと、細い気管チューブのねじれによる気管チューブの閉塞が発生する可能性がある(図1aおよび図1b)。搬送用の呼吸回路の重みがかからないように、気管チューブと回路を接続し、ねじれが無いことを確認する必要がある。搬送用人工呼吸器は、より安定した分時換気量を提供し、高リスク患者の低炭酸ガス血症または高炭酸ガス血症を回避する。8,9 ただし、不適切な気管チューブの位置、ねじれ、閉塞に関連するリスクを防ぐことはできない。気管チューブの固定具は病棟や施設によって異なるが、通常ICUの小児患者には皮膚の損傷を最小限に抑えるものが好まれる。さらに、挿管された患者を動かすという一見単純な行為は非常に刺激が大きい可能性があり、その結果交感神経が活性化し、頻脈、興奮、咳を引き起こし、気道の過敏性による気管支けいれんを引き起こす可能性がある。また体動により、肺のコンプライアンスが変化し、適切な酸素化と換気ができなくなる可能性もがある。

図1b: NeoBar ET チューブ(NeoTech Products LLC, Valencia, CA)で固定された気管内チューブをAmbuバッグ(Ambu Inc., Columbia, MD)に取り付けると、回路/換気システムの重量を軽減せずにねじれが生じた。

図 1b:NeoBar ET チューブ(NeoTech Products LLC)で固定された気管チューブは、アンビュバッグ(Ambu Inc.)に繋ぐと、回路/換気システムの重みでねじれが生じる。

侵襲的換気は粘膜繊毛クリアランスが損なわれるため、粘液が詰まる危険因子となる。10 これに鎮静剤や神経筋遮断薬が加わると、咳や粘液を排出する本来の能力がさらに損なわれる。搬送中、患者は通常、気道の加温や加湿を行わずに搬送されるため粘液栓が形成されやすくなる。多くの臨床医は、挿管された患者に鎮静薬とともに神経筋遮断薬を投与することを選択する。搬送のために神経筋遮断薬を使うことの利点には、人工呼吸器の同期不全が解消されることが挙げられるが、これは最新の携帯型人工呼吸器を使用することで回避できる。神経筋遮断薬の使用で、興奮している患者の点滴やチューブの事故抜去のリスクを軽減し、搬送チームの作業負荷も軽減する。しかし、挿管された小児患者の搬送時に神経筋遮断薬を使用すると、予期せぬ結果が生じる可能性もある。2人の小児の2回の心停止が、メカニズムは不明であるが気管チューブの粘液詰まりの悪化と関連していたという報告があった。3,11 また患者自身の呼吸努力が不要になることで人工呼吸器の設定の変更が必要になる場合や、気管チューブのリークが悪化する可能性もある。さらに、鎮静剤の使用では交感神経の緊張が低下し、低血圧を引き起こす可能性があり、神経筋遮断薬の使用では基礎代謝が低下し低炭酸ガス血症となる可能性もある。小児患者の搬送時に神経筋遮断薬や鎮静剤を使用するかどうかの決定は、前述の利点と欠点を前提とすべきである。

リスクの特定と軽減

重篤な小児の搬送を行う前に、リスク、利益、代替手段がないかを慎重に検討する必要がある。有害事象としては、点滴の事故抜去、血行動態の乱れ、計画外の事故抜管、低酸素血症、低炭酸ガスおよび高炭酸ガス血症、出血、気胸、リスクのある患者の頭蓋内圧の上昇、低体温、院内感染のリスク増加などが挙げられる。3,12-15 患者が高周波振動換気やジェット換気(HFOV/HFJV)などの高度な換気モードを使用している場合や体外式膜型人工肺(ECMO)などの体外装置を使用している場合、放射線科、処置室、または手術室への搬送のリスクと、ベッドサイドで診断、治療、処置を行うことのリスクについて、集学的な議論が必要である。可能な限り、リスクの高い患者に対してベッドサイドでの代替手段を強く検討すべきである。

術後の搬送は、多くの潜在的な合併症を起こす可能性のある期間である。呼吸器合併症のほぼ75%と心停止の70%が術後に発生した。3 麻酔下にある患者の場合、搬送中に麻酔から覚める場合もある。多くの患者は抜管されてから搬送されるが、搬送時に呼吸器系有害事象を見つけたり、治療をすることは困難であることが多い。これは、廊下を移動しながら緊急用具を使用したり補助したりする認知負荷の増加によるものだ。実際、これらの事故では、タスクの過負荷が二次的な原因として指摘されることが多々あった。3

効果的なコミュニケーションとチームワーク

標準化された引き継ぎツールの使用、搬送に直接関与する医療従事者の適切なトレーニング、病院内での患者搬送時に起こりうる可能性のあるリスクについて、指示する臨床医との緊密なコミュニケーションが推奨される。無料で利用できる検証済みのツールは以下より入手可能:https://www.handoffs.org/patient-handoff-resources/。搬送に関わる各チームメンバーは、必要に応じて気道管理、投薬管理、ベッドやその他の機器の操作を担当するなど特定の役割を担うように専任のプロバイダーを配置するべきである。それは、診断を容易にするための「単なる画像検査」や治療を進めるための簡単な処置手順かもしれないが、慎重に検討しなければ、患者、家族、臨床医、補助スタッフ、さらには面会者にさえ重篤で壊滅的な合併症を引き起こす可能性がある。可能な限り、ベッドサイドでできる利用可能な代替処置を考慮するべきである。

すべての関連情報が正しく伝達されていることを確認し、必要な物品機器や緊急薬が使用できることを確認するチェックリストは、時に圧倒されるほどの大変な作業をより管理しやすくし、情報の紛失を防ぐのに役立つかもしれない。ベッドサイドでの看護師の引き継ぎにより、輸液/投薬の増量や点滴変更などの介入の頻度、気管内吸引の頻度などから患者の状態変化を知ることが出来る。

チームワークとコミュニケーション戦略

重要な処置は、リーダー、効果的なコミュニケーションの仕方、チームメンバーの役割が明確なチームによって管理するのが最善である。16 これらの原則は、心停止、救命処置、外傷、手術室での複雑な蘇生中などに適用されている。よって、重症で麻酔下にある小児の搬送にもこの原則を適用できる。チームリーダーを明確にし、状態が不安定な患者に対してはチームリーダーはチームを率いること以外の仕事をすべきではない。搬送中の全てのあらゆる作業に専従する適切な数の熟練したチームメンバーを確保することが重要である。医療チームと看護チームが患者のケアに集中できるよう、補助スタッフがベッドを押しても良いだろう。人工呼吸器、血管作動薬、または機械的循環補助などの生理学的サポートに依存している患者には、それぞれの作業に適切なスキルを備えた専任のスタッフが必要である。鎮静剤、昇圧剤、または高張食塩水のボーラス投与を頻回に必要とする患者は、搬送中にこれらの作業のみを専門に行う医療従事者を必要とする場合がある。

安全性の文化

搬送プロセスとチームトレーニングを標準化することにより、搬送に関する安全文化が改善されるはずである。患者の院内搬送に関する国内または国際的な標準となるものはなく、現時点では特定の搬送チームを検証するためのデータは限られている。前述したように、慎重なリスク評価が不可欠である。人工呼吸器、血管作動薬、脳室ドレナージなどの救命技術に依存している患者には、適切なバックアップ機器や薬剤を備え、それらの技術を使用する知識、技術、経験を積んだ搬送チームが必要である。2つの研究により、若手研修医は上級研修医/指導医よりも有害事象を経験する割合が高いことが判明した。17,18 可能であれば、チームの上級メンバーが重症患者の搬送に同行し、若手臨床医の研修を手伝う必要がある。最近の多施設共同研究では、肯定的な安全風土と効果的なチームプロセスが、重症成人の院内搬送中の有害事象の減少に関連していることが示された。19 チームの経験とトレーニングの義務化も有害事象を減少させた。19

結語

病院内搬送は気道管理、状態悪化の早期認識、コミュニケーション、チームワークなど、患者の安全に関する数多くの懸念が交差する場所である。20 Wake Up Safe データベースにある小児の院内搬送事故に関する最近のレビューでは、最もリスクの高い集団は、生後6か月以下の小児と、重度の併存疾患を持つ小児であった。院内搬送に必要な時間は比較的短いにもかかわらず、この期間は小児麻酔による有害事象全体の5%に相当する可能性がある。3 搬送のリスク評価や引き継ぎの仕方を標準化し、医療資源を適切に割り当てることは、この変動の大きい時間のケアを改善するために不可欠である。

 

Anila B. Elliott, MDは、ミシガン州アナーバーにあるミシガン大学ヘルスシステム校の小児麻酔学の臨床助教授である。

Anne Baetzel, MDは、ミシガン州アナーバーにあるミシガン大学ヘルス システム校の小児麻酔学の臨床助教授である。

Jessica Kalata, MDは、ミシガン州アナーバーにあるミシガン大学ヘルス システムの麻酔科医レジデントである。

Bishr Haydar, MD,は、ミシガン州アナーバーにあるミシガン大学ヘルスシステム校の小児麻酔学の臨床准教授である。


著者らに開示すべき利益相反はない。


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