非手術室麻酔( NORA )の安全性

Jason D. Walls, MD; Mark S. Weiss, MD
サマリー: 

非手術室麻酔(NORA)は、麻酔診療にしめる割合が増加してきている。NORAは、安全な麻酔ケアに関して特有の課題を持っているが、プロトコルと学際的なチームワークは、NORA室における安全で効率的かつ費用対効果の高い手技治療を促進できる。

はじめに

コンピューター断層撮影(CT)エリア

コンピューター断層撮影(CT)エリア

症例数が年々増加するにつれて1 非手術室麻酔(NORA)を利用した手技でこれまでにないほど多くの現代的な麻酔診療が行われ、NORAは進化し続けている。2 NORAを利用した手技の拡大は、侵襲性の低い手技の開発、併存疾患の増加を伴う高齢化、NORA症例の適応と複雑さを拡大させる新技術の導入、コスト削減によって価値が向上する様にみえる医療環境、などを含む多くの推進力の影響による可能性がある。これらの進歩と成長により、麻酔チームへの新たな要求は従来の方法に課題を投げかけてている。NORA症例は、患者のリスクならびに傷害の増加の可能性を伴う、より侵襲性の高いモニタリング技術およびより深いレベルの鎮静を必要とする場合がある。Woodwardらが注目したように、我々は「NORAにおける患者と手技の複雑さの進展」に直面している。3

クローズドクレームデータ

放射線処置室

放射線処置室

クローズドクレームデータベースの調査は、NORA手技に関連する潜在的な有害結果および脆弱性についての見通しを示している。NORAクローズドクレーム症例の大部分は、消化管内視鏡室に由来している。3 これは、他の場所と比較して、そこで行われた症例の数が多いことに関連しているのかもしれない。

手術室で行われた患者と比較して、NORA手技を受けた患者は、重傷や死亡の頻度が高い。4〜6 死亡を含むNORA関連のクレームの半分以上において、患者に改善されたモニタリング技術が使用されていれば、それらは予防可能であったと考えられる低水準の麻酔を受けていたと考えられた。5 最適とは言えないケアと安全な手技を提供できなかったことが、転帰不良に繫がったとみなされた。3 ほとんどのクレームは呼吸器関連事象、特に不適切な酸素化/換気に関連していた。5,6 Monitored anesthesia careは、最も一般的に使用されている麻酔技術であり、クレームの50%を占めていた。5 全クレームの3分の1は呼吸抑制につながる過鎮静と関係していた。過鎮静に関するクレームでは、呼気二酸化炭素のモニタリングや呼吸モニタリングの使用は限られていた。5,6

NORAはどれくらい危険か?

クローズドクレームの研究からの興味深い発見にもかかわらず、リスクを軽減し安全性を改善するための交絡作用となるNORAを利用した予後に関するデータは限定されている。5,6 従来の教示では、NORAを利用した手技を受けた患者は、従来の手術室で行われていたものと比較して、リスクが高かった。しかし、National Anesthesia Clinical Outcomes Registry(NACOR)の最近の知見は、NORAを利用した手技は全体として、従来の手術室の手技と比較して合併症、罹患率、および死亡率が低いことを示唆している。2 しかし重要なことに、NORAの場所によって有害事象の頻度が異なる可能性がある。具体的には、Changらは、手術室や消化管検査室と比較して、心臓科および放射線検査室でNORA処置を受けた患者の合併症の発生率が高く、死亡率が高いことを報告した。2 この分析は、年齢と併存症による影響を考慮していないので、その結果を解釈する際は注意すべきである。

NORA特有の問題と、より一般的な手技上の問題の両方がNORAを利用した手技のリスクに影響を与える(表1)。NORA固有の問題は、場所や手技に関連した課題を含めて、NORAが行われる部屋内の懸念に関連している。NORA手技は多くの場合、患者へのアクセスが制限されている過密な部屋で行われる。これらの部屋はもともと麻酔のために設計されていなかったのかもしれない。それらは時代遅れの麻酔装置が後付けされた場合がある。それらは、不十分な電源を備えた小型なもので、貧弱な照明しか装備されていないかもしれない。NORAの手技で表記すべき追加の問題は、機器の供給ライン(適切な監視装置など)と、サポートスタッフの妥当性と有用性である。NORAの症例はまた、手術室と比較して通常の就業時間後に始まる可能性が高い。1 これらの「時間外」の開始は、重要な人材の利用を制限し、手技および麻酔の補助を不慣れな人員に強要する可能性がある。また、従来の手術室と比較して、より多くのNORA手技が緊急時に行われている。6 時間外の開始や緊急での施行が患者の予後不良につながるかどうかは不明である。

表1:NORA環境で安全な医療を提供することへの課題

NORA-特有の課題
薬局や物品から離れた場所
騒がしい環境
限られたワークスペース、小さな処置室
不適切な照明
最小限の温度調整
電気的/磁気的干渉
古く、おそらくなじみのない機器
熟練した麻酔支援スタッフの不足
処置中の患者へのアクセス制限
不十分な電源供給
放射線の安全性
NORAおよびOR麻酔に関連する課題
機器の供給
適切な監視装置
不適切な支援スタッフ
患者関連疾患
多くの症例が通常の勤務時間後に行われる
「緊急」手技の割合の増加

患者の問題

統計的に、NORA患者は手術室で従来の手術を受けている患者の人口よりも高齢で、NORA患者の平均年齢は従来の手術を受けている群よりも急速に上昇している。NORA患者はまた、従来の手術室で手技を受けていた患者よりも医学的に複雑な併存症を持つ傾向があり、全体的な患者のリスクが高い。1,6 従来の手術室の患者と比較して、NORAを受けている患者の大部分はASAのPSIII-Vに分類されている。1 多くの場合、これらの患者は従来の手術手技の適応ではなく、彼らの唯一の選択肢はNORAでの施行である。2

NORAを受ける高齢で医学的に複雑な患者の数が増えるにつれて、麻酔チームは患者の安全性と手技の実現可能性を評価するために手技前の評価を重視しなければならない。手技の前にこれらの患者を適切に評価する我々の能力は、限られているか困難であるかもしれない。NORA手術を行う多くの臨床医は、術前診療所も患者を術前に検査するための専用スペースも持っていない。NORAの各専門分野に固有の患者固有の併存疾患は、すべての手術の前に評価されなければならない。例えば、麻酔科医は、内視鏡検査前に食道狭窄または逆流の影響、電気生理学検査前に心不全の重要性、MRIの前に気道閉塞に対して迅速な対処を制限する閉塞性睡眠時無呼吸の重症度を評価しなければならない。NORA患者は重症である可能性があり、手技を緊急に実施する必要があるかもしれない。この緊急性は、インフォームド・コンセントを受ける患者の能力の低下をもたらし得る。侵襲的モニタリングが必要な場合があり、必要に応じて準備し利用可能にすべきである。絶食状態は、すべての手技の前に評価されなければならず、麻酔手技を提供する際に考慮されなければならない。

NORAスペクトラム全体にわたるその他の懸念は、気道の共有を必要とする処置中の気道管理を含む。いくつかの処置は、大腸内視鏡検査および内視鏡的逆行性胆道膵管造影を含む様々な消化管に対する手技のために、腹臥位や側臥位など仰臥位以外の体位に患者をすることがある。すべての状況において、麻酔チーム、手技者、看護師およびその他の支援スタッフの間のリアルタイムのコミュニケーションに重点を置く必要がある。開かれた、学際的なコミュニケーションは手技の開始前に開始し(例:麻酔薬の選択と安全性に関する懸念を議論する)、手技を通して継続し、常に患者の安全性を重視する回復室へと引き継がれるべきである。

放射線処置室

放射線処置室

人事/サポートチムの問題

従来の手術室は、役割と実践を明確に定義した領域である。麻酔科医は、この領域内で機能するように特に訓練されている。これとは対照的に、手術室以外の処置室は通常独立しており、特定の手技用にカスタマイズされている。NORA環境で働く職員は手術室のプロトコルに馴染みがなく、麻酔下の患者に対して落ち着かないか慣れていないかもしれない。彼らは特化した医学的または臨床的背景を持ち、麻酔関連の問題や緊急時プロトコルに慣れていないかもしれない。同様に、麻酔チームは、専用施設、その環境、スタッフ組織、およびワークフローに精通していない可能性があり、「部外者」として扱われることがある。スタッフ間の自由なコミュニケーションは安全な実践のために最も重要であり、情報を共有することへの障壁は特定され、対処されるべきである。患者の安全プロトコルに対するスタッフのコンプライアンスは、定期的な指導と評価によって強化されるべきである。

設備とモニタリング

NORAの機器とモニタリングは、従来の手術室と同じ基準で保持する必要がある。NORAの部屋では、適切な機器と標準的な監視が安全の鍵となる。NORA症例はしばしば、必要なリソースから遠く離れた場所で行われ、標準的な麻酔機器のレベルは様々である。麻酔機器は時代遅れまたは後付けである可能性があり、前述のように、実施されている実際の処置とNORA室の物理的制約の両方のために、最適な作業スペースおよび患者へのアクセスが制限される可能性がある。6

2013年に、ASAはNORAの場所に対する安全で質の高い医療を奨励するためのガイドラインを発表した。7 これらのガイドラインは、酸素化、換気、循環および体温のモニターを含め、従来の手術室と同様の標準的なモニターの使用を必須とすることによって、安全なケアを提供するための最低基準を麻酔科医に提供する。8 NORAを提供するとき、麻酔科医はすべての必要な機器をセットアップしチェックするために適切な時間を要求し、安全なNORAを提供するために必要なリソースにアクセスできるようにするべきである。NORA室では、うまく働かない機器、不適切なワークスペース、および不十分なサポートを許容してはいけない。

NORA手術に対する患者安全性の向上

NORAの増加につれて、患者の安全性と提供される麻酔の質は、患者へのリスクを減らすために強化され続けられなければならない。NORA症例の患者の安全性を向上させるための合理的な最初のステップには、適切な症例の準備と場所、機器、および利用可能なスタッフをよく知る事が含まれる。全体として、麻酔担当者は患者ケアのためのNORA環境の安全性を保証するために手技チームと協力しなければならない。追加の準備措置には、すべての麻酔関連機器の定期的なメンテナンス、救急薬の適切な供給、および適切な安全プロトコルの作成が含まれるべきである。緊急処置のためのプロトコルの確立は、有害事象に対する適切な対応の確立と同様に、NORA を利用した臨床の安全性を高める。

最近のエビデンスは、手術室で使用されているのと同じ標準的なケアを適切に注意深くモニターし維持することによって、多くのNORA関連の合併症が予防されることを強く示唆している。2 前述のように、クローズドクレーム解析は、NORAにおける有害転帰の大部分が呼吸抑制および不適切なモニタリングに関連していることを示した。ASAモニタリング基準は、可能な限りすべてのNORA環境で守られなければならず、特に臨床症状の評価と呼気中の二酸化炭素のモニタリングを通じて適切な換気の確保の重要性が強調されなければならない。手術室と同様に、担当者と機器の可用性を確保するプロトコルとチェックリストは、信頼性と一貫性のある安全な結果を得るためのケアを標準化するのに役立つ。これらの対策は、慣れている手技と慣れていない手技の両方を管理するのに役立ち、不慣れなスタッフでも一定のケアを提供可能とするのに役立つかもしれない。すべてのプロトコルと経路の各ステップを評価して、医師と患者の両方にとって一貫した、安全で均一なNORA環境を作成する必要がある。

有害事象はそれらを予測し防止するための最善の努力にもかかわらず、発生する可能性がある。有害事象が発生した場合、それらを調べ、今後の発生を防ぐためのシステムが整備されていることが不可欠である。そのようなシステムは、潜在的なエラーとニアミスを定義して調べる方法を取らなければならない。そのようなシステムは、起こってから反応するのではなく、むしろ予防的であるべきである。質の改善プログラムは、報告、根本原因分析、継続的教育プログラムによって確立され強化されるべきである。

未来を超えて

より深いレベルの鎮静を必要とする新しく、複雑な手技が開発され、高度な技術を利用するNORAが増加し続けるため、麻酔科医は集学的なチームアプローチを指導し、 手技を改善し、価値を高め、患者の安全を維持するためによいポジションにおかれるべきである。

麻酔科医は、安全な手技を定義し、適切なガイドラインを確立し、効率的な資源管理を指示し、リスク関連データを確立し続ける必要がある。NORA特有の研修生教育と生涯学習を通じて、私たちの専門分野の教育を継続的に重視する必要がある。効率的かつ安全なNORAを提供しようとするにあたり、患者の術前評価、術中および術後の患者のモニタリング、多くのますます複雑化する症例に対して適切な麻酔薬を提供する能力、を向上させるために、技術の進歩を活用して進化し続けなくてはいけない。9

結語

NORAは、様々な患者に対する手技ケアの利用可能性を増やす最前線にある新興分野である。さまざまな患者の病気を治療するために新しい技術を利用することは、NORAを提供する麻酔科医にとって新たな課題をもたらし続けるであろう。安全な手技とNORAに関連するリスクの理解を深めることで、麻酔科医は急速に進化し拡大しているこのサブスペシャリティーの分野の最前線にいることができる。

 

Dr. Wallsは、ペンシルバニア大学医学部の臨床麻酔科および集中治療部の助教授(日本の講師・助教に相当)である。

Dr. Weissはペンシルバニア大学医学部の臨床麻酔と集中治療の助教授(日本の講師・助教に相当)である。


著者らはこの記事に関し利益相反はない。


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