英語能力が低い患者向けの周術期ケアの改善

by Yasuko Mano, MD, MPH; Nima Saboori, MD; Janak Chandrasoma, MD; Justyne Decker, MD

臨床現場での患者とのコミュニケーションエラーは、病状の予後不良につながる。1,2 特に、英語能力が低い患者(Low English Proficiency, LEP)は、患者中心のケアを受ける機会が少なく、医療サービスを利用する頻度も低いことから、医療現場では有害事象のリスク増加に直面していることが報告されている。3,4 LEP 患者の転帰不良と関連があると示されているリスクの高い環境には、投薬調整、退院、インフォームド・コンセントの取得、救急外来での治療、周術期の外科的治療などが含まれ、これらは麻酔科医のほぼすべての業務と関わる。5,6 周術期のケア環境では、麻酔科医は患者と医師のコミュニケーションを改善し、可能な限り質の高い患者ケアを提供するために、対面通訳、電話通訳、またはビデオ通訳を利用することが奨励されている。7

LEPの患者ケアは、通訳サービスが広く利用できるようになったことである程度は容易になったが、周術期には通訳サービスの利用が難しい場面が依然として残っている。8-13 ​​患者の周術期の経過では、いまだに言語通訳者の使用が困難または不足している現状がある。その場面には、チェックイン時および術前クリニックへの入室時の手続き中である。患者が病院に入院した後、臨床医との面会中に通訳が利用できることはよくあるが、この時点に至るまでのプロセスでは通訳が使用されることはほとんどない。11 もう1つのポイントは、手術中であり、対面通訳が行われることもあるが、多くの場合、医療通訳者は手術室に簡単に入ることができず、麻酔導入時と麻酔からの覚醒時に効果的に活用できないことがよくある。13 これらの場面は周術期においては比較的小さな部分ではあるものの、周術期のあらゆる段階でのコミュニケーションの誤りや効果的なコミュニケーションの不足は、患者の安全性を低下させる可能性がある。これらの特定された“隙間”に対応し、我々は麻酔ケアチームとLEP患者の間のコミュニケーションを強化するために、術前および術中環境の構造的変化に焦点を当てた品質改善の取り組みを行った。

私たちはまず、患者が最初に医療システムで麻酔ケアチームに紹介される術前クリニックで、ウェルカムメッセージと個別の挨拶で患者との信頼関係を構築し、効果的なコミュニケーションを促進することを目指した。即時チェックインのプロセスでは、翻訳され、ラミネート加工されたウェルカムメッセージと来院の説明がLEP患者に提供された(図 1)。このメッセージの目的は、訪問のワークフローと目的の概要を説明するだけではなく、病歴、術前の指示、質問について患者の希望する言語で話し合うことで患者に安心感を与えることであった。患者層で最も頻繁に使用される上位10言語の外国語によるメッセージの翻訳は、ネイティブ スピーカーの医療専門家によって作成された(図 2)。さらに、患者の言語を識別するラミネートカードが各 LEP 患者のカルテに配置され、医療スタッフに患者の会話で使う主な言葉が視覚的に示された(図 3)。カードの裏面には「こんにちは、私の名前は(スタッフ名)です」「○○さん(スタッフ名)です」の発音が記載されている。「(患者名)術前クリニックまでお越しください」というメッセージを10カ国語それぞれに印刷し、スタッフが母国語で挨拶、自己紹介、患者への呼びかけを行うことを目的としている。患者を病室に案内させた後、術前診療チームの残りのメンバーがそのカルテを利用して、患者の母国語で挨拶することもできる。

図1:言語障壁を持つ患者の術前診察時に変更した取り組みの概略図。著者の許可を得て使用。

図1:言語障壁を持つ患者の術前診察時に変更した取り組みの概略図。著者の許可を得て使用。

図2:Keck Hospitalで遭遇した上位10言語に翻訳されたウェルカム メッセージ(英語テンプレート)。著者の許可を得て使用。

図2:Keck Hospitalで遭遇した上位10言語に翻訳されたウェルカム メッセージ(英語テンプレート)。著者の許可を得て使用。

図3:各LEP患者のカルテに配置されたカードの正面図(a)と背面図(b)。著者の許可を得て使用。

図3:各LEP患者のカルテに配置されたカードの正面図(a)と背面図(b)。著者の許可を得て使用。

同様に、手術当日には、対面通訳者やビデオ通訳者が手術室に同行しないものの、麻酔を開始するときと麻酔から覚醒するときに患者の母国語でいくつかの重要なフレーズを伝えられることを患者に説明し、術前の不安を軽減し、医師と患者の関係を改善することに重点を置いた。言語ツールバッジカードは施設で遭遇する外国語の上位10か国語で作成され、「大きく息をしてください」、「手術は終了しました」、「痛みはありますか」などの発音をリスト化した(図 4)。これらの翻訳は、これらの言語を母語とする医療専門家によって作成され、麻酔ケアチームのメンバー全員に配布された。スタッフ間でバッジカード使用に関するフィードバックが奨励された。この追加の資料がすぐに利用できるようになったことで、麻酔ケアチームは麻酔導入時と覚醒時、回復時に患者に深呼吸を促し、酸素化を改善し、術後の呼吸状態を改善できるようになった。ケアチームは、手術が終了したことを伝えることで、麻酔からの覚醒時の状態も改善することができた。最終的には、未治療または十分に治療されていない術後の疼痛を最小限に抑えるために、麻酔後回復室に移送する前に患者の痛みをより適切に評価できるようになった。以上より、患者の母国語でいくつかのキーワードやフレーズを使用することで、患者ケアの重要な場面でのLEP患者とのコミュニケーションを改善した(図 5)。

図4:南カリフォルニア大学ケック病院のすべての麻酔スタッフに提供されるバッジ カード。著者の許可を得て使用。

図4:南カリフォルニア大学ケック病院のすべての麻酔スタッフに提供されるバッジ カード。著者の許可を得て使用。

図5:バッジカード言語ツールを術中に導入した取り組みの図。著者の許可を得て使用。

図5:バッジカード言語ツールを術中に導入した取り組みの図。著者の許可を得て使用。

この取り組みの品質改善を評価するために、患者と臨床スタッフは、経験を評価用の5段階リッカート尺度法のアンケートに記入した。調査結果は集計され、患者の満足度と全体的なフィードバックが評価された。ほぼ全体的に、患者と医療スタッフはこの変化が自分たちの経験にプラスの影響を与えたと回答した。53人の患者が調査に回答し、89%が5/5と回答した(導入した挨拶とメッセージがとても良い取り組みであり、歓迎されていると感じられたことに強く同意)。さらに4%が4/5と回答し、残りの7%はどちらでもない3/5と回答した。これらの取り組みにマイナスな影響を与えたという回答はなかった。術前診療チームと麻酔ケアチームの代表からなる56人のスタッフメンバーが調査に回答し、88%が5/5で回答した(言語ツールが役に立ち、患者とのやり取りにプラスの影響を与えたことに強く同意)。残りの12%は4/5と回答した。

この取り組みは、いくつかの注目すべき成果を生み出した。まず、周術期の言語の壁に対処するための構造的変更を低コストで導入できることが示された。ラミネート加工されたウェルカムメッセージ、チャートカード、バッジの作成に要した総費用は250ドル未満で、当部門が資金を提供した。本研究には外部資金や外部人材は必要なかった。第二に、この取り組みは比較的迅速に実施できた。治験審査委員会から承認を得て、翻訳の準備、ラミネート加工、印刷、資料配布までにわずか数か月しかかからなかった。最後に、英語能力の程度が術前よりもさらに低くなりやすいLEP患者の麻酔覚醒時のコミュニケーションを改善することができた。

全体的に、品質改善の取り組みは、術前および術中の場面に対するこれらの構造的変化が、LEP患者への対応を改善したことを示している。患者はこれらの取り組みに対して肯定的なフィードバックを行い、関与した医療スタッフは言語ツールの使いやすさを高く評価し、以前より患者とのコミュニケーションがしやすくなり、気まずさを感じにくくなったと述べた。この研究結果に基づいて、言語ツールは、手術室および術前診察内での患者と医療スタッフとのコミュニケーションを改善するシンプルで実用的なアプローチを提供することを示した。さらに、我々の介入は、術前クリニック内および手術当日の麻酔チームが患者へよりよい医療提供を与えるのに役立った。患者中心の医療ケアの改善により、患者との信頼関係を築き、患者と麻酔ケアチームの両方の周術期全体のパフォーマンスを向上させることができる。

今回の取り組みへの障壁には、翻訳を行う医療専門家を見つけることや、医療スタッフに新しいバッジ、カード、ウェルカムメッセージを定着化させることであった。しかしながら、翻訳が完了した後、医療スタッフが新しいプロセスを習慣化してからは、残りのプロセスはスムーズであった。オリエンテーションのプロセスには、新しいワークフローを確認する簡単な対面トレーニング、グリーティングカードとバッジの使用方法の練習が含まれており、すべてに約30分かかった。我々の病院では遭遇する上位10言語を話す院内の医療スタッフがいるが、これが他の病院でも同じように当てはまるわけではない。したがって、代替リソースとして有料の医療翻訳サービスは検討されるべきである。上位10言語に当てはまらない少数の患者(4.7%)についてはクリニック訪問時に通訳を付けることができた。これらの言語は今後のシステムに組み込まれる予定である。

最小限のリソースで実施が容易であることを考慮すると、我々の取り組みはLEP患者への医療提供における改善が、ほとんどの周術期の場面で実現可能であることを示している。最も一般的な言語は患者の人口統計に基づいて各施設で異なるが、各施設のニーズに応じて簡単にカスタマイズできる。まとめると、術前評価中のハイリスクポイントおよび術中ケアの医療スタッフと患者間のコミュニケーションを改善することで、LEP患者との信頼関係とケアの質の向上を達成することができた。今後のステップとしては、対応言語数の増加、術中に使用されるフレーズの種類の増加、特に最近の医療分野でのデジタル技術の増加を考慮して、翻訳へのアクセスや使用のしやすさを拡大する方法を見つけることである。14,15 言語の壁のギャップに対処するために、モバイル アプリケーションの翻訳サービスが従来の言語サービスに取って代わる可能性があるが、デジタルリテラシーが潜在的な問題であることは引き続き注意しなければならない。14

結論として、我々の取り組みは言語障壁のある患者への医療提供にプラスの影響を与えた。これらの変化により、退院時のコミュニケーションが容易になったり、術前診察でも円滑な関係が築けるなど、患者中心のケアが改善されたことが示された。最終的には、LEP手術患者が直面している障壁を特定し、それらのギャップを埋めるようにケアを調整することで、LEP手術患者の周術期ケアを一歩ずつ改善することを目指している。

 

Yasuko Mano, MD, MPHは、カリフォルニア州ロサンゼルスの南カリフォルニア大学ケック医学部を卒業し、現在はイリノイ州シカゴのノースウェスタン大学フェインバーグ医科大学で麻酔学レジデントである。

Nima Saboori, MDは、南カリフォルニア大学ケック医学部を卒業し、現在はカリフォルニア大学アーバイン校の麻酔科レジデントである。

Janak Chandrasoma, MDは、南カリフォルニア大学Keck Medical Centerの麻酔学の臨床准教授である。

Justyne Decker, MDは、カリフォルニア州ロサンゼルスにある南カリフォルニア大学ケック医療センターの麻酔学の臨床助教授である。


著者らに開示すべき利益相反はない。


参考文献

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