スガマデクス:アナフィラキシーのリスク

David Corda, MD; Nikolaus Gravenstein, MD著

私たちの製薬施設では新しい物質が頻繁に生成される。それらが診療に実体的な影響を与えれば、すばらしい臨床の補助となり得る。試験に合格できないものもあるが、合格するものもある。スガマデクスは後者の例である。ヨーロッパ(2008年)または日本(2010年)よりずっと遅れてFDAの承認を得て米国で発売開始となった(2015年12月)。現在では、この薬の使用患者経験が何年も蓄積されてきている。この APSF Newsletter の記事で、高澤医師らは、日本の経験について詳しく説明しており、人口の10%までもが既にスガマデクスに暴露されていると推定している。1 どんな薬でも、特に新しいものでは、重大なアレルギー反応の懸念が根底に常にある。事実、FDAは、過敏性反応の懸念を主張して、米国でのスガマデクスの承認を数回延期した。2

ほとんどのスガマデクスの過敏性反応は、くしゃみ、吐き気、発疹、蕁麻疹などの軽度の症状を引き起こすが、気道浮腫、気管支痙攣、心血管虚脱などの生命を脅かす可能性のある症状を伴うアナフィラキシーのリスクがわずかだが実際にある。スガマデクス「アナフィラキシー」のメカニズムは不明なままだが、繰り返し暴露(多くの場合避けられない患者もいる)してもリスクは増大しないようであることは安心材料ではある。興味深いことに、過敏性反応のリスクは、投与量が多いほど増加するようである。2

高澤医師らは、日本での経験で、これまでの情報では実際にスガマデクスによるアナフィラキシーの実際のリスクを決定するのは非常に困難であると指摘している。著者らは、発生率を0.0025%から0.039%の範囲と報告している。これは、日本のPMDAのデータを使用するか、単一施設研究の報告を使用するかによって、15倍の差がある。著者らが示唆しているように、このばらつきの多くは、認識、診断確定、そしておそらく最も重要なのは自主的な報告の難しさに由来している。米国も同様の自主的な報告(分子)のため、発生率(報告されたアナフィラキシーの症例数/曝露患者総数)を正確に推定することが困難になっている。では、分かっていることは何か?Merck and Co.の添付文書には、健康被験者で過敏性反応0.3%と驚くべき発生率が記載されている。3 これは、高澤医師らによって報告された発生率よりも何倍も高く、私たち独自の2年間の臨床経験をはるかに超えるものである。究極的に、アナフィラキシーは、患者と医療関係者にとって、起こるか起こらないか、の二元事象である。

それでは、私たちはこの新薬とアナフィラキシー反応の可能性への懸念について高澤医師らから何を学べばいいか?スガマデクスアナフィラキシーは、手術室で見られる他のアナフィラキシー反応とどう違うか?歴史的に、ほとんどの術中アナフィラキシーは、抗生剤、筋弛緩薬、またはラテックスによって起こっているが、現代の手術室ではラテックス製品がはるかに少なくなったため、ラテックスアレルギーは減少している。4 高澤医師らが参照しているように、スガマデクスに対する実際のアナフィラキシー率がロクロニウムのアナフィラキシー率とほぼ同じと推定すると、術中アナフィラキシーの総発生率は少なくとも3分の1増加すると推定できる。現在の術中アナフィラキシーの割合が1:10-20,000であるとすると、術中アナフィラキシーの総発生率は1:6-14,000に増加する可能性がある。4

抗生剤、筋弛緩薬、ラテックスでは、一般的に手術の早い段階でアレルギー反応が見られる。これらとは異なり、スガマデクスは通常、症例の終わりに投与される。従って、明確な違いは、アナフィラキシー発症と看視のタイミングが、今までなら予期しない時間帯に起こり得るということである。スガマデクス・アナフィラキシーの発生は、投与5分以内に起こると思われる。5 興味深いことに、スガマデクスによるアナフィラキシーの可能性は、用量に関連するようである。3 したがって、アナフィラキシーの発生率を低下させるために最小有効量を使用することは理にかなっている。おおよその目安として、ロクロニウム1mgを包接/拮抗するためには4mg(厳密には3.57mg)のスガマデクスが必要であり、したがって、ほとんどの場合、投与量200mgで十分である。6

スガマデクスの重大なアナフィラキシーが発生した場合、最初の治療はエピネフリンの少量ボーラスを反応に応じて調整することで、その後必要に応じてエピネフリンを持続静注する。7 私たちの施設からMedWatchに報告された1例として、非ステロイド性抗炎症薬に対するアナフィラキシーの既往のある高齢男性の症例がある。症例の終わりにロクロニウムを2mg/kgのスガマデクスでリバースした。1分後、患者の血圧は収縮期40台まで低下し、酸素飽和度低下、皮膚の紅潮、重度の気管支痙攣を伴った。患者はエピネフリン静注(20μg3回ボーラス)、ジフェンヒドラミン(50mg)、デキサメタゾン(12mg)およびファモチジン(20mg)で治療された。患者の症状は10分ほどで落ち着いたが、低用量のエピネフリン持続静注を短時間行った。トリプターゼ値は74ng/mLと有意に上昇していた。8 これは、私たちの施設で約4,500人の患者がこの薬物を投与されて最初のスガマデクス・アナフィラキシーの症例であった。約1年後の第2の症例では、心血管虚脱を伴わない気管支痙攣のみを呈し、20μgのエピネフリンボーラス投与により改善した。症例報告や個人的な経験により、スガマデクス・アナフィラキシーは通常の治療に反応すること、私たちの施設での発生率は <1:4,000(0.025%未満)であることが確認されており、安心材料といえる。

要約すると、スガマデクスのアナフィラキシーは、潜在的には重大な結果となりうるものであり、高澤らの報告のように、不明確ではあるが低頻度で確実に発生する。過去の静脈内曝露歴なしに起こることがある。重要なこととして、アナフィラキシーはスガマデクスの投与量が多いほど起こりやすく、症例の終わりに(曝露から5分以内に)起こり、標準的なエピネフリンによるアナフィラキシー治療に反応する。

Dr. Cordaは、University of Floridaの麻酔科助教授(日本の講師・助教に相当)であり、多専門麻酔主任である。

Dr. Gravensteinは、University of FloridaのJerome H. Modell麻酔科教授、脳神経外科教授、歯周病学教授である。


どちらの著者も、この記事に関連する開示はない。


参考文献

  1. Takazawa T, Katsuyuki M, Sawa T, et al. The current status of sugammadex usage and the occurrence of sugammadex-induced anaphylaxis in Japan. APSF Newsletter 2018;33:1.
  2. https://www.accessdata.fda.gov/drugsatfda_docs/nda/2015/022225Orig1s000SumR.pdf. Accessed March 2018 .
  3. Bridion® Prescribing Information: Accessed on March 29, 2018. https://www.merckconnect.com/bridion/dosing.html?gclid=CjwKCAjwwPfVBRBiEiwAdkM0HRmYcD7oNbtdcOS7t1oDoUuYjy4YMCBaNzrdE3x3zTCLAboW4mMMwxoCF5cQAvD_BwE&gclsrc=aw.ds. Accessed March 2018 .
  4. Mertes PM, Malinowsky JM, Jouffroy L, et al. Reducing the risk of anaphylaxis during anesthesia: 2011 updated guidelines for clinical practice. Journal of Investigational Allergy and Clinical Immunology 2011;21:442.
  5. Tsur A., Kalansky A. Hypersensitivity associated with sugammadex administration: a systematic review. Anaesthesia 2014;69:1251–1257.
  6. Brull SJ, Kopman AF. Current status of neuromuscular reversal and monitoring challenges and opportunities. Anesthesiology 2017;126:173–190.
  7. McEvoy MD, Thies KC, Einav S, et al. Cardiac arrest in the operating room: part 2—special situations in the perioperative period. Anesthesia & Analgesia 2018; 126:889–903.
  8. Schwartz L. (2018). Laboratory tests to support the clinical diagnosis of anaphylaxis. In J.M Kelso (Ed.). Accessed on March 5, 2018 from https://www.uptodate.com/contents/laboratory-tests-to-support-the-clinical-diagnosis-of-anaphylaxis?source=see link#H3