人工呼吸器1台の複数患者利用に関する共同声明

3月 26, 2020

人工呼吸器 声明ロゴ

麻酔患者安全財団(Anesthesia Patient Safety Foundation, ASPF)、米国集中治療医学会(Society of Critical Care Medicine, SCCM)、米国呼吸療法学会(American Association for Respiratory Care, AARC)、米国麻酔科学会(American Society of Anesthesiologists, ASA)、米国クリティカルケア看護師協会(American Association of Critical‐Care Nurses, AACN)、および米国胸部専門医学会(American College of Chest Physicians, CHEST)は、呼吸不全のある複数患者に対して1台の人工呼吸器を用いる問題に取り組むために協力を開始しました。新聞やデジタルメディア、および一部ヘルスケアグループによって、人工呼吸器不足の問題に対処する方法として、呼吸不全を起こしている複数患者を1台の人工呼吸器で治療するという考えが最近提唱されていました。APSFおよび他組織は、このアプローチが患者に害を及ぼす可能性があること、さらに人工呼吸器容量を増やす代替方法があり、その方が患者へのリスクが少ないと考えています。

[PDF Version]

人工呼吸器1台の複数患者利用に関する共同声明

2020年3月26日:米国集中治療医学会(Society of Critical Care Medicine, SCCM)、米国呼吸療法学会(American Association for Respiratory Care, AARC)、米国麻酔学会(American Society of Anesthesiologists, ASA)、麻酔患者安全財団(Anesthesia Patient Safety Foundation, ASPF)、米国クリティカルケア看護師協会(American Association of Critical‐Care Nurses, AACN)、および米国胸部専門医学会(American College of Chest Physicians, CHEST)は、複数患者に対して1台の人工呼吸器を利用する方針について、この合意声明を発表しました。

上記組織は、現在の機器では安全性の懸念により、人工呼吸器の共有は試みるべきではないと臨床医に助言しています。COVID‐19発症患者における急性呼吸窮迫症候群(acute respiratory distress syndrome, ARDS)の生理学的見解は複雑になっています。理想的な環境にあっても、ARDSと非均一性肺疾患を併発する患者1人への人工呼吸治療を行うことは困難であり、死亡率は40%から60%になります。ここで説明する問題を踏まえると、複数のCOVID-19患者に対して人工呼吸治療を行うとすると、隔離感染患者への転帰率不良になり、死亡率が高くなる可能性があります。非常に困難であるが珍しいことではないこととしてトリアージは医療危機で行われることが多いため、複数患者に対して死亡を招く、また延命失敗させるよりも、回復する可能性が最も高い患者に優先的に人工呼吸器を使う方が適切です。

背景:複数患者に対して1台の人工呼吸器で治療を行うことへの関心は、COVID-19パンデミック時に人工呼吸器の利用可能数を拡大したい人々によって高まってきました。人工呼吸器1台あたり複数患者を治療する方法に関する初期の議論は、2006年1にNeymanらによって、2013年2月にPaladinoらによって進められました。ただしいずれの場合も、Branson、Rubinson等はこの手法の使用を推奨できないと警告しています。3-5 当然機器は患者1人用に設計されているため、臨床医は、臨床的に証明された安全で信頼性の高い治療法が利用できる限りにおいては(悲惨な一時的な緊急事態)、人工呼吸器1台で複数の患者の治療を行う利用方法を取らないようにすることを推奨しています。

複数人の患者に対して1台の人工呼吸器で治療を行うとすると、中央ハブのように人工呼吸器を、その周りに放射状に患者を配置する必要があるでしょう。この配置により、患者はベッド頭部にある酸素、空気、真空の供給機器から離されることになります。また患者が互いに近接した状態にならざるを得ず、細菌の移動を可能にしてしまいます。患者ベッドを離して設置しようとすると、おそらく炭酸過多血症になります。

人工呼吸器はある1人の患者の自発呼吸を感知し、それに基づいて他の患者の呼吸頻度を設定してしまうことにもなります。追加された回路ボリュームは、トリガーを妨げる可能性があります。一方向弁がない場合には、患者は回路間でガスを共有する可能性もあります。患者間で振子空気が発生する可能性があり、交差感染と過膨張の両方を引き起こします。アラームを設定しても、全患者の呼吸器系の応答全体でのみしか監視できません。これにより、1人の患者でのみ発生する変化を捉えることができません。複数患者に対して1台の人工呼吸器での治療を回避すべき理由は数多くあります。

これらの理由も含まれます:

  • 最も高い肺コンプライアンスにある患者に人工呼吸器からの通気が起こります。
  • これらの患者にとって決定的に重要となる呼気終末陽圧は、管理することが不可能です。
  • 患者を監視し、肺の動力状況を測定することは、不可能ではないにしてもとても困難です。
  • アラームの監視と管理は実行できません。
  • 臨床的な改善または悪化の症状管理を個別に行うことは不可能でしょう。
  • 心停止が起こったら、医療従事者がウイルスのエアロゾル感染暴露を受けずに換気バッグを変更できるように、すべての患者への換気を停止する必要があります。この状況はまた、他の患者への呼吸供給動力をも変更させてしまいます。
  • 追加された回路ボリュームは、作動自動テストを無効にします(テストは失敗になる)。臨床医は、テスト無しに人工呼吸器を操作する必要があり、測定誤差の発生も増加する可能性があります。
  • 追加の外部監視が必要になります。人工呼吸器は平均圧力と体積を監視します。
  • たとえ1台の人工呼吸器に接続されているすべての患者が、治療開始時に同じ臨床的特徴を持っていたとしても、異なる速度で悪化したり、回復したりする可能性があり、各患者へのガスの配分は同じではなく、監視することができません。最も病状の重い患者は一回換気量が最も小さく、改善傾向にある患者は一回換気量が大きくなります。
  • 最大のリスクは、1人の患者(気胸、気管内チューブのねじれ等)の状態が突然悪化し、他の患者への喚起量に対してのガス供給が狂ってしまうことです。
  • 最後に、倫理的な問題があります。人工呼吸器は1人の患者救命を目的に設計されていることを前提とすると、一度に複数の患者にそれを使用すると、すべての人にとって命にかかわる治療の失敗リスクが高まります。

参考文献

  1. Neyman G, Irvin CB.危機的状況に対応するための、複数患者への1台人工呼吸器治療。救急医療学会.2006年11月;13(11):1246‐1249.
  2. Paladino L, Silverberg M, Charcaflieh JG. 災害時の換気サージ容量の増加: 変更された回路を備えた1台の人工呼吸器を、成人サイズの羊4匹に対して接続蘇生.2008年4月;77(1):121‐126.
  3. Branson RD、Rubinson L. 複数患者への1台の人工呼吸器利用:データが表すもの蘇生.2008年10月;79(1):171‐172; 著者返答 172‐173.
  4. Branson RD, Rubinson L. 危機的状況に対応するための、複数患者への1台人工呼吸器治療。救急医療学会.2006年12月;13(12):1352‐1353; 著者返答 1353‐1354.
  5. Branson RD, Blakeman TC, Robinson BR, Johannigman JA.4人の患者に1つの人工呼吸器を使用:限定的条件における臨床評価。呼吸治療.2012年3月;57(3):399‐403.