出血は手術室内死亡の主要な原因であり、出血死の3分の1は待機的手術中の予期しない臓器や血管の損傷によって発生している。予期しない出血への対応がこれらの患者の生存と死亡を分けると言っても過言ではない。コード出血の実装について解説する。これは、当院でのコミュニケーション、意思決定、および患者ケアを強化した構造化された対応戦略である。他施設でのコード出血の採用は患者の転帰を改善する可能性がある。
出血は手術室内死亡の主要な原因であり、1出血死の3分の2は緊急手術で発生している。ただし、出血死の3分の1は待機的手術中の予期しない臓器や血管の損傷によって発生している。1-5 予期せぬ出血への対応がこれらの患者の生と死を分けると言っても過言ではない。
危機管理とは手術室で緊急の重大イベントに対処するプロセスのことである。6 予期しない出血が起きた時、麻酔専門職はリソースを動員し、多職種によるケアを調整し、数分以内に患者を治療しなければならない。このプロセスは混沌としていることが多く、医療提供者に依存しているため、患者のケアが損なわれる可能性がある。私たちの施設での最近の待機的手術で、外科的出血がコントロールできなくなり、最終的に外科的死に至った症例があった。高血圧と慢性疼痛のある70歳の女性で、腰椎の前方後腹膜アプローチによる脊椎固定術と人工椎間板置換術が予定された。血管外科医が脊椎の外科的露出を行ったが、露出する際に静脈の大損傷が起きた。根本原因分析がなされ、危機管理プロトコルの再評価が促された。ここでは、コード出血と呼ばれる術中出血の危機対応プロトコルの作成と実装について説明する。
プロトコルの作成は主要関係者のワーキンググループから始まった。麻酔専門職、外科医、看護スタッフ、輸血の専門家、および病院の管理者が術中の危機対応資源管理と外科的出血に関連する既存のガイドライン、コンセンサスステートメント、および現在の慣行を見直した。Joint Commissionの方法論とエクストラネットサイトJoint Commission Connect™を利用して重大イベントとリンクしている主要な要因を同定し、根本原因分析と行動計画のためのフレームワークを作成した。根本原因分析の構成要素と麻酔管理に関連する要素を表1に示す。この情報を使用して、上記チームが術中出血の包括的な危機対応プロトコルを作成した。このプロトコルのアラートにより、麻酔専門職、外傷外科医、看護スタッフ、サポートスタッフ、および輸血部を含む多職種チームが招集される。次に、このプロトコルの改良のために主要な担当者と関係者によるシミュレーションを実施した。4,6 コード出血は、出血イベントに応じて麻酔専門職、外科医、または手術室の看護師が発動する。手術室のフロントデスクに電話をかけると「コード出血手術室番号」の館内放送がなされる。
表 1: 重大なイベントに関連する主要因。
周術期の重大な有害事象に関連する重要な要素を示す。
主要因 |
手術の種類 |
外科的判断 |
外科的技術的合併症 |
助けを求めるタイミング |
コミュニケーション |
血液供給 |
麻酔管理 |
– 薬 |
– 機器 |
– 追加ライン確保のタイミング |
– 役割の明確さ |
– フォローアップコミュニケーション |
– 助けを求めるタイミング |
– 追加のマンパワー |
麻酔チームの役割
麻酔チームリーダーは追加の麻酔専門職を動員し、スタッフを特定の役割に割り当てる(図1)。追加(二次)麻酔専門職には麻酔指導医、研修医、麻酔看護師、および麻酔技士が含まれる。割り当てられた役割には投薬と輸液管理、静脈ライン動脈ラインの確保、血液製剤の投与、急速輸血装置の配備、ポイントオブケア検査の実施、および適切な記録が含まれる。麻酔技士は急速輸血装置のセットアップ、経食道心エコー(TEE: transesophageal echocardiogram)装置の取得、および中心静脈または動脈ライン確保の介助を担う。二次麻酔専門職が麻酔チームに明確で簡潔な指示を出し、タスクの実行を保証することによって、麻酔担当(一次)麻酔専門職は患者管理と外科チームとのコミュニケーションに集中できる。このことは患者の転帰にとって非常に重要である。⁵ さらに、二次麻酔専門職は一次麻酔専門職の響板としての役割を果たし、診断と治療を促進する。私たちの施設には夜間と週末にも複数の麻酔専門職が院内待機している。リソースが少ない施設では、手術危機対応チームの一員として集中治療医や迅速対応チームを利用することも選択肢となりうる。
図 1:コード出血の人員と責任。
周術期の重大な有害事象中の各チームの責任を示している。
麻酔専門職 |
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外傷外科医 |
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麻酔技士 |
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手術室外回り看護師 |
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輸血部 |
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看護師の役割
コード出血では看護スタッフの対応も発動される。手術室責任看護師は、追加の外回り看護師(予備/休憩看護師)を割り当てて手術室担当(一次)外回り看護師を支援させ、手術室の効率を高める。追加の看護師の役割には外傷手術用カートを手術室に運ぶことが含まれ、出血をコントロールするための機器を利用できるようにする。追加の外回り看護師はまた輸血部と麻酔チームとのコミュニケーションを促進し、手術室内での血液製剤の独立したダブルチェックの過程を手伝う。当院には休憩のために交代する看護師と手術室責任看護師がいて、助けに入ることができる。より限られたリソースしかない施設では、手術危機対応チームの一員として術後ケア看護師を雇うことが選択肢となりうる。
手術室責任看護師はまた大量輸血プロトコル(MTP: massive transfusion protocol)を発動する可能性が高いことを輸血部に警告する。追加の外回り看護師は症例全体を通して輸血部との緊密なコミュニケーションを促進する。輸血医療チームの役割は大量輸血プロトコルの準備をすることである。輸血部の専門医師は手術室に電話するか直接会いに来て、輸血、凝固の最適化、および輸血部のリソースの管理について麻酔専門職と定期的に話し合う。
外傷外科医の役割
コード出血に特有なのは、危機対応チームのメンバーとして院内待機の外傷外科医の関与を標準化している点である。外傷外科医は生命を脅かす損傷に対処して急速に患者の状態を安定させることができる経験豊富な術者である。危機的出血における最も重要なステップは出血源を特定してコントロールすることである。² 手術室での出血管理に関する出版物は多職種アプローチ、大量輸血プロトコルを支持しており、産科/周産期出血に焦点を当てていることが多い。
腹部大動脈瘤破裂が疑われる患者を管理する際の早期の血管外科医の関与を含む多職種プロトコルの利点について論じている出版物もある。⁷ この概念は高リスクの外科手術で述べられてきたが、出血性ショックの他の多くの原因にも役立つと思われる。文献では多数の大量輸血プロトコルが存在するが、コード出血は外傷外科医の参加を常に含むという点が特徴的で、術中出血源のコントロールを行う執刀医に迅速な手助けを提供できる。
手術危機で助けを求めるかどうかを判断するとき、執刀医は同僚に迷惑をかけることに不安を感じるかもしれない。執刀医はこの決定を行う際にも過度に自我の影響を受ける可能性がある。したがって、コード出血の強制メンバーとして外傷外科医を客観的に利用することで、不適切な治療の遅れのリスクを減らせるかもしれない。緊急開腹と胸部手術を行うために必要な器具を揃えた緊急外傷カートの準備もコード出血に特有である。最後に、コード出血は関係するすべての分野のリソース展開に対する組織化されたアプローチの点で注目に値し、当院でのコミュニケーション、意思決定、および患者ケアを強化している。
外傷外科医の専門性は、出血源コントロール、直接圧迫、一時的なパッキング、大動脈のクランプ、大動脈蘇生血管内バルーン閉塞(REBOA: resuscitative endovascular balloon occlusion of the aorta)又はダメージコントロール手術を含む迅速な診断や治療を提供する。1術中の緊急事態は非常にストレスが多く、状況認識の喪失は執刀外科チームの「トンネル・ビジョン」につながる可能性がある。これは、症例がより複雑になりうるアカデミックな環境でいっそうひどくなり、研修医は術中の危機管理を支援するための教育と経験を欠いている可能性がある。⁴ 外傷外科医は執刀外科チームに新たな視点と専門性の両方を提供する。
結論
コード出血を作成するにあたり、私たちの目標は、術中の危機を管理する際に組織的で体系的かつ堅牢な対応を促進するための共有メンタルモデルを確立することだった。
この構造化された対応戦略の実装により、当院でのコミュニケーション、意思決定、および患者ケアが強化された。約1年前にコード出血が公開されて以来、適用前だったら術中死になったと考えられる術中危機的出血を管理するために8回発動されている。症例は肝胆道手術4件、産科手術2件、および整形外科手術2件であった。出血に加えて、経食道心エコー検査所見から肺塞栓合併の疑い例が4件あった。8人の患者全員が術中を生き延びた。5人の患者が手術経過後に死亡した。特に、3人の患者は低血圧と出血に関連した虚血性脳損傷を受けていた。驚くべきことに、3人の患者が自宅退院できた。他施設でのコード出血の採用は患者の転帰を改善する可能性がある。
Taizoon Q. Dhoon、MDはカリフォルニア大学アーバイン校の助教授(日本の講師・助教に相当)である。
Darren Raphael、MD、MBAはカリフォルニア大学アーバイン校の准教授である。
Govind R.C. Rajan MBBS、FAAC D、FASAはカリフォルニア大学アーバイン校の教授である。
Doug Vaughn、MDはカリフォルニア大学アーバイン校の准教授である。
Scott Engwall、MD、MBA、FAACDはカリフォルニア大学アーバイン校の教授である。
Shermeen Vakharia MD、MBAはカリフォルニア大学アーバイン校の教授である。
著者らに開示すべき利益相反はない。
参考文献
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- Ghadimi K, Levy JH, Welsby IJ. Perioperative management of the bleeding patient. Br J Anaesth. 2016;117:iii18–iii30.
- Moorthy K, Munz Y, Forrest D, et al. Surgical crisis management skills training and assessment: a simulation [corrected]-based approach to enhancing operating room performance. Ann Surg. 2006;244:139–147.
- Dutton RP, Lee LA, Stephens LS, et. al. Massive hemorrhage: a report from the anesthesia closed claims project. Anesthesiology. 2014;121:450–458.
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- Chehroudi C, Patapas J, Lampron J, et. al. Expanding the trauma code to other causes of hemorrhagic shock—ruptured abdominal aortic aneurysms. Can J Surg. 2019;62:E17–E18.