国際麻酔学会の許可を得て転載。会議の報告。DOI:10.1213/ANE.0000000000003878.Anesthesia & Analgesia:2018年10月30日 – ahead of print Copyright © 2018 International Anesthesia Research Society. All Rights Reserved.
Anesthesia Patient Safety Foundation 主催の会議報告書
職場での薬物流用は、医療従事者および患者の安全に悪影響を及ぼす可能性がある。Anesthesia Patient Safety Foundation (APSF)は、薬物使用障害、職場での流用、および患者の安全性への潜在的な悪影響について、公開討議、教育、研究、政策、その他の可能な介入を通じて対処する必要があると考えている。この分野での改善を図るために、APSFは「麻酔専門家による薬物流用」と題した会議を開催した:APSFが全員の安全を守るにはどうすればよいか?2017年9月7日、アリゾナ州フェニックスにて(補足電子資料、文書)、http://links.lww.com/AA/C616)。それは上記の著者らによってまとめられた。APSF会長のMark A. Warnerは、大規模麻酔グループ経営陣および経営管理会社を代表する50人以上の参加者を迎えた。参加者は半日の会議に参加して、オピオイドの蔓延に関連した麻酔患者の安全性の問題、特に医療現場での薬物流用について話し合った。
ワークショップは、薬物流用に関連した患者と医療従事者の安全性に関する情報を提供する専門家による学際的パネルによって紹介された。このワークショップの目的は、医療従事者と患者に対する薬物流用に関連するリスクを軽減するための(幅広い)勧告を作成することだった。この会議は、さまざまな利害関係者による一連の情報提供とそれに関連する参加者回答調査から始まり、続いてパネルディスカッションと小グループ分科会が開催された。
討論
医療従事者における薬物使用障害の有病率と医療従事者ならびに研修者にとって薬物の誤用が職業上の危険性であることを示すデータについて広範に認識しているにもかかわらず、有病率、教育、およびその結果の改善はほとんどなかった。薬物使用障害は社会に影響を与え続けている問題である。麻酔専門家を含む医療従事者の10%〜15%が、現職中に薬物やアルコールを誤用すると推定されている。1 薬物使用障害は医療従事者の最も頻繁な身体障害疾患であることが示唆されている。ワークショップでの発表で強調されているように、医療現場での薬物流用を減らすための活動に関して学際的な協調が必要であることは明らかである。
薬物流用
「医療現場からの薬物流用:複数の犠牲者を産む犯罪」Keith h. Berge(メイヨークリニック、ミネソタ州ロチェスター)は、依存症の医療従事者は自分のために雇用者から薬を流用するだけでなく、彼らの患者から薬を流用することを指摘した。これは患者の安全性に大きなリスクをもたらし、流用に関連した感染症の発生によって証明されるように、血液によって媒介される病原体に患者をさらしてしまう。2 Dr. Berge は、薬物流用は、患者、依存症の医療従事者、その同僚、雇用主、そして社会を危険にさらす複数の犠牲者を産む犯罪であるという考えを支持し、警戒が必須であると強調した。さらに、確実となった流用に対して起こりうる結果を調査・管理し、対処する医療機関内の方針と手順を提唱した。3
麻薬の保全
「麻薬の保全:C型肝炎の流行による標準ケアの発展」Brian Thomas(カンザス州オーバーランドパークのPreferred Physicians Medical)は、病院職員が血液媒介病原体を患者に感染させた3つの注目すべき事例に焦点を当てて、薬物流用の医療法的見解を提供した。病院職員が麻酔施行者が放置していた麻薬を盗んで注射し、注射器に食塩水を補充し、患者に投与するために返却した。これらの事件により、生命に関わるC型肝炎感染患者が数十人発生し、複数の訴訟、医療委員会および看護委員会による調査、関連した医療従事者および施設に対する広範囲にわたる否定的な評判が生じた。4 彼は、医療過誤訴訟において、標準治療は専門家の意見と証言によって定義されると述べている。最近頻繁に報道された事例に照らして、麻酔専門医間のコンセンサスは、麻酔専門家の直接の管理下にない場合、付表3と4に属する全ての麻薬は、施錠された場所に保管する必要があるということである。彼はまた、全ての病院/施設の薬物貯蔵とセキュリティポリシーを注意深く見直し、遵守すること、規制物質や医薬品が保全・管理されずに流用されることが決してないようにすること、一度払い出された規制物質や医薬品があなたの患者に流用されないかどうかを慎重に検討すること、薬物流用を疑われる場合は疑わしい態度や行動を報告すること、職場の薬物検査ポリシーを実施すること、を含めたリスク管理戦略を提案した。
薬物流用は何故、どのようにして起こるのか
「沈黙の伝染病:医療現場での薬物流用」Tricia Meyer(テキサス州テンプルのスコット&ホワイトテンプルメディカルセンター)は、規制物質の盗難/流用が医療現場で如何に一般的に行われているかを指摘し、それは、これらの場所では危険性の高い背景と、薬物に容易にアクセスできることに起因し得ることを指摘した。1,5 個人の健康問題に対する自己投薬、疾患治療のための薬剤使用に対する文化的受容、痛みの軽減、過労、睡眠不足、空室がありアクセス可能であること、高度な非経口投与スキル、薬物乱用に対する免疫の過信、死と臨死期の体験、など他にもいくつかの潜在的な理由が考えられる。6,7
合同委員会は投薬管理基準で、病院が流用を防止するために法規制に従って、保全場所で薬を安全に保管し、必要に応じて施錠することを確実に行うことを薬剤の保全において期待している。8 各組織は、連邦および州の法規制に準拠した規制物質の流用防止プログラムを開発する責任がある。さらに、病院は、手順の遵守と有効性を常に見直し、統制を強化し、積極的に流用を阻止するよう努めるために、技術を使用し継続的な監視をすべきである。7
しかし、多くの医療システムは、規制物質の監視に齟齬があり、責任に欠け、規制要件への準拠に矛盾があり、統制よりも利便性を重視するプロセス、矛盾と遅れの帰結、無計画なプロセス、発言を躊躇する文化を持ち、それらが流用を可能にする。Dr. Meyerは発表の中で、目標は医療従事者による流用数、医療従事者が流用を開始するのとそれを発見する時間の差、依存症の医療従事者によって流用されるバイアル/錠剤/注射器の数を減らすことであると指摘した。どんな薬物の使用プロセスでもほぼあらゆる段階で流用される機会がある。
流用は、規制物質の調達、準備/調剤、処方、投与、廃棄/除去で発生する可能性がある。これらはそれぞれ盗難のリスクポイントを示しており、各ステップで安全対策を講じておく必要がある。
不適切な医療従事者
「捕まえられるものなら捕まえてみろ」Rigo Garcia(インディアナ州チェスタトンParkdale Center for Professional)は、薬物使用障害との彼の個人的な経験と、依存症となった専門家とその家族の診断、治療、モニタリング、支援を専門とするセンターの共同創設者兼エグゼクティブプログラムディレクターとしての経験を共有した。彼の発表で、Garcia 氏は、依存症の医療従事者が規制物質の悪用を可能にする組織の規制要件における矛盾と不適合について説明した。彼は、医療従事者は薬物へのアクセスが容易で、それらの使用法に関する専門知識を持ち、ストレスが増えていく仕事であるために、薬物使用障害のリスクが高いままであるので、適切な治療とそれに続く責務監視プログラムが薬物をたち続けるに当たり不可欠であると主張した。Garcia 氏は、薬物使用障害の医療従事者を管理するための懲罰的アプローチは過去50年間無効であることが証明されており、自発的に援助を求めたいと望む人にとっては有害であると強調した。
オピオイドソムリエ
「手術患者にオピオイドは必要か?」Ronald S. Litman(ペンシルベニア州フィラデルフィアのフィラデルフィア小児病院、およびペンシルバニア州ホーシャムの安全な薬物診療協会)は、周術期環境におけるオピオイドの流用を防止するいかなる試みもそれが教育、監視、警戒によるものであれば、最終的には不可能であるという彼の見解を共有した。これらはすべて、歴史的にみて行動の変化おこさないからである。Dr. Litman は、麻酔専門家による流用を防ぐ唯一の信頼できる方法は、オピオイドへのアクセスとその投与をできなくすることであるという挑戦的な勧告をした。オピオイドは伝統的にバランス麻酔の一部として使用されているが、それらの術中使用は予後の改善と確実には関連付けられていない。事実、オピオイドのβ遮断薬への盲検置換は、術後のオピオイド使用の減少をもたらした。9,10
そのため、Dr. Litman は、周術期の環境でオピオイド投与を計画する医療専門家である「オピオイドソムリエ」の概念を紹介した。この方法は、麻酔および他の手術室職員によるオピオイド流用を排除するように設計される。職員個人個人が薬物を利用可能でない場合、それは潜在的に医療従事者による最初のオピオイド使用を減少させるだろう。そのためには、麻酔専門家が自分自身でオピオイドを投与する現在の標準的方法にとっては、いくつかの障害を克服する必要があるだろう。具体的には、オピオイドソムリエを特定すること、彼らの資格と責任を定義すること、彼らのオピオイド投与優先方法を決定すること、およびすべての周術期に関わる職員の参加を得ることが含まれる。
推奨事項
会議での参加者投票により、麻酔業務従事者における薬物使用障害と周術期環境における薬物流用に対する姿勢と優先順位が明らかになった(表1)。最も合意された行動項目(92%の合意)は麻酔実践グループが薬物検査方針を開発し実行することだった。しかし、以前に Anesthesia & Analgesia で発表された論文で議論されたように、そのようなシステム実施の実用性は必ずしも簡単ではない。11,12 プレゼンテーションと小規模ブレイクアウトセッションでのさらなる議論の結果、多様な利害関係者のグループは、幅広い提案のポートフォリオを提示した(表2)。
表 1. 薬物使用障害と薬物流用に関する意識
参加者aによって回答された声明 | 賛成 (n = 51), % |
依存症は選択の問題であり、実際の疾患とはいえない。 | 7% |
薬物の流用者は、比較的識別しやすいパターンと態度を示す。 | 6% |
医療現場からの薬物流用はまれである。 | 18% |
薬物を流用していることが判明した問題のある麻酔専門家は、人事、施設のセキュリティー、直属の上司と対面すべきである。彼らは直ちに薬物を一掃するためにロッカーに連行されるべきであり、さらなる調査を待つ間直ちに家に送られるべきである。 | 37% |
手術室は「安全な場所」である。 | 9% |
麻酔専門家は自分の患者のために薬剤が入った注射器を自分で準備する必要がある。 | 50% |
1錠のオキシコドンの盗難は、営業日内に麻薬取締局(米国)に報告されなければならない犯罪である。 | 84% |
麻酔診療グループは薬物検査方針を策定し実施するべきである。 | 92% |
薬物を流用するほとんどの医療従事者は、自己申告によって捕捉される。 | 0% |
外科的処置はオピオイドなしで行うことができる。 | 77% |
a参加者は、医療施設の臨床業務、医療施設の管理運営、医療施設、企業、その他の事業環境の研究活動を代表している。参加者のより詳細な背景は利用できなかった。51人の参加者は、66% の麻酔科医、15% の麻酔看護師、4% の看護師、4% の非臨床医療の専門家、および 11% の企業/業界の専門家で構成されていた。 |
表 2. 医療施設または保健システムに対する推奨事項および介入の可能性
推奨事項 | 介入の可能性 |
医療機関内での薬物使用障害と流用に関連した予防に焦点を当てる。 | 手順実施の中で臨床医ウェルネス委員会を設立する。 |
流用に関連する不名誉を返上し、安全の基盤を促進するために、薬物使用障害に関する包括的な教育プログラムを提供する。 | 教育モジュールを開発し、薬物使用障害のリスクを増大させる要因に対処する安全文化を構築する。 |
薬物の流用や薬物の乱用に関連する明確な方針を策定する。 | ベストプラクティスを確認し、手順実施における薬物流用および薬物乱用の防止および検出のための方針を策定するために学際的グループを招集する。これには、紛失した薬物の事件を調査する薬物流用を調査するチームを加えるべきである。 |
医療機関は、すべての麻酔専門家のための「報告のプロセス」と治療オプションに関連する適切な勧告を特定し、提供する必要がある。 | 情報ツールキットを開発し、各麻酔グループと医療組織内のリソース担当者を指定する。 |
薬物使用障害に焦点を当てた重点分野を管理するための包括的なアプローチを開発する。 | 健康、薬物使用障害、流用および治療の選択に関連している年次コンピテンシーモジュールが利用でき、医療の組織内で広く伝えられるべきである。 |
新しい従業員参照チェック(休職を明確にすることを含む)の包括的な要件を作成する。 | 包括的な参照チェックプロセスを標準化する。 |
規制物質のモニタリングに関連するすべての医療機関間の一貫性を高める。 | 規制物質の医療機関内の監視のための明確な方針を作成し、支持する。 |
コンプライアンスと責任を優先する。 | 薬物検査ポリシーを標準化する。 |
研究を強化し、すべての医療分野から学ぶ。 | 研究、教育、政策開発を促進するための学際的なコラボレーション。 |
要約すると、薬物使用障害は依存症であり、他の依存症と同様に、それは疾患である。その診断、管理、および治療法は疾患の重症度によって異なる。効果的な治療手段は、薬物使用障害が完治可能ではなく生涯にわたるモニタリングを必要とするという認識に焦点を当てることである。予防にも同様に重点を置く必要がある。職場での薬物使用障害および薬物の流用は、医療従事者および患者の安全に悪影響を及ぼす可能性がある。医療機関は安全性と責任を培うことによって前向きな変化を遂げる機会がある。
Dr. Van Pelt は、ノースイースタン大学の臨床准教授であり、看護師による麻酔プログラムのディレクターである。彼女は APSF の教育訓練委員会の委員長を務め、執行委員会および理事会のメンバーである。
Dr. Meyer は現在、Baylor Scott&White Medical Center-Temple の薬局の地域ディレクターであり、Texas A&M College of Medicine の麻酔科学講座の准教授である。彼女は Neumentum の諮問委員会を務め、APSF の編集委員も務めている。
Garcia 氏は、専門家のための依存症治療を行なっている Parkdale Center の最高経営責任者である。
Thomas 氏は、カンザス州オーバーランドパークにある麻酔科医の専門賠償責任会社である Preferred Physicians Medical(PPM)のリスク管理担当副社長である。Thomas 氏は APSF の編集委員会のメンバーである。
Dr. Litman は、ペンシルバニア大学医学部の安全薬物治療研究所の医学ディレクターであり、フィラデルフィア小児病院の麻酔科指導医である。
Dr. Van Pelt, Meyer と Dr. Litman はこの記事に関して開示すべき事項はない。Garcia 氏は Alkermes の講演者である。Thomas 氏はこの記事に関して開示すべき事項はない。
参考文献
- Wright EL, McGuiness T, Moneyham LD, et al. Opioid abuse among nurse anesthetists and anesthesiologists. AANA J. 2012;80:120–128.
- Schaefer MK, Perez JF. Outbreaks of infections associated with drug diversion by US health care personnel. Mayo Clin Proc. 2014;89:878–887.
- Berge KH, Dillon KR, Sikkink KM, et al. Diversion of drugs within health care facilities, a multiple-victim crime: patterns of diversion, scope, consequences, detection, and prevention. Mayo Clin Proc. 2012;87:674–682.
- Thomas BJ. Securing narcotics: standard of care evolves in wake of hepatitis C outbreaks. Anesth Law. 2013:1–5.
- Baldisserri MR. Impaired healthcare professional. Crit Care Med. 2007;35(suppl):S106–S116.
- Desmond J. University of Michigan Injury Center-Opioid Overdose Summit. December 8, 2015; https://www.slideshare.net/UMInjuryCenter/health-system-response-to-opioid-overdose-diversion-by-jeffrey-s-desmond-md. Accessed August 30, 2017.
- Brummond PW, Chen DF, Churchill WW, et al. ASHP guidelines on preventing diversion of controlled substances. Am J Health Syst Pharm. 2017;74:325–348.
- Joint Commission. Medication Management Standard MM-1. Comprehensive Accreditation Manual for Hospitals. Oakbrook Terrace, IL: Joint Commission Resources; 2016.
- Chia YY, Chan MH, Ko NH, Liu K. Role of beta-blockade in anaesthesia and postoperative pain management after hysterectomy. Br J Anaesth. 2004;93:799–805.
- Collard V, Mistraletti G, Taqi A, et al. Intraoperative esmolol infusion in the absence of opioids spares postoperative fentanyl in patients undergoing ambulatory laparoscopic cholecystectomy. Anesth Analg. 2007;105:1255–1262.
- Rice MJ, Grek SB, Swift MD, Nance JJ, Shaw AD. The need for mandatory random drug testing in anesthesia providers. Anesth Analg. 2017;124:1712–1716.
- Berge KH, McGlinch BP. The law of unintended consequences can never be repealed: the hazards of random urine drug screening of anesthesia providers. Anesth Analg. 2017;124:1397–1399.
Supplemental digital content is available for this article. Direct URL citations appear in the printed text and are provided in the HTML and PDF versions of this article on the journal’s website (www.anesthesia-analgesia.org).